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第21話 逢瀬の終わりに 3
ー 逢瀬の終わりに 3 ー
朝食を食べた後、もう一回深く抱き合った。ドイツでの再会を約束しながら……
でも、ほんの少し昨夜のキナトを思い出したのは、勿論伝えない。
真名彦がドイツに来た時にでもばらそうかと思う俺も大概だ。
「 帰りは渡月橋まで船に乗る 」
「 へぇ、随分風流なんだ 」
「 風流なんて言葉、知ってるんだな 」
日本に来る時に一番に覚えたよ、どのガイドブックにも載ってた言葉だから、エレガンスって 」
今朝の真名彦は薄いピンクのボタンダウンのシャツに濃紺のスラックスを履いている。
スッキリとしてシックで俺の歳ではとても真似できない色気を纏う本物のエレガンスなその身体に又触れそうになるのを抑えながら、
相変わらずの原色を集めた超カラフルなシャツにブラックジーンズの俺は、
「 もう、時間だから行かなきゃ 」
と真名彦を促した。
脱いだ浴衣をしっかり荷物に入れた俺。
「 置いてけよ、洗っといてやるから 」
「 俺のクロゼットに掛けとくんだ 」
「 寝巻きにはするなよ 」
軽く笑いながら言う真名彦に頷いた俺は、なんでバレたんだろうと心の中で舌を出した。
船に乗り川を下り旅の宿を後にする。
明後日にはドイツのスタジオでサックスを吹いているだろう俺は、異国で大切な恋人を待つ。
心の中で指切りをして京都駅で別れた。改札を通る俺の姿を優しく見護る真名彦の眼差しがドイツに帰る俺の心に大きな光を残した。
消えない光、大切に持っていく、短かった逢瀬の中の沢山の思い出と一緒に。
end
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