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―純血の絆―③ヴァンパイアとしての愛し方
「うっ、穂高さんはっ……すごい、な」
満月が出る夜の前後に、吸血衝動が出やすいことが分かってから、バイトのシフトを昼間に変更したり休んだり、自分なりに工夫してやり過ごしていた。
喉の奥が干上がる何とも言えないその感じは、いく度味わってもつらいと思わされた。俺に出逢う前にこの吸血衝動を、穂高さんは必死になって抑えていたというんだから、本当に頭が下がる。
脳内に描かれる深紅の液体、煌めく赤い色の血液――それが、どんな味をしているのか。頭の中であれこれ想像するだけで涎が滴るのに、それが喉を通っても上っ面を通過するだけで、余計に干上がっていく感覚を覚える。
ぎゅっと目を閉じて、頭の上から布団をかぶって吸血衝動が治まるのを待っていたら、背中にずっしりとした重さをいきなり感じた。
「千秋、随分とつらそうだね。大丈夫かい?」
それは布団の外から聞こえた、くぐもった声だった。だけど聞き覚えのあるその声を聞いた瞬間に布地を引っ張って、何とか頭だけを出した。
「穂高さん、どうして……」
「合鍵を使って部屋に入った。俺は昨日の夜に、吸血衝動があってね。千秋の頑張りを真似して、やり過ごしてみたんだ。だけど――」
背後から回されている穂高さんの両腕の力が、痛いくらいにきつくなる。
「暗闇の中でも光り輝く赤い瞳を見ただけで、君に魅せられてしまう」
俺の姿に当てられたのか、穂高さんも髪の色が金髪になるのと同時に、両目の色が赤くなった。
「駄目だよ、穂高さん。今の俺は吸血鬼なんだから」
穂高さんが欲する血を与える存在に、俺はなれないというのに。求めるように見つめられるだけで、俺自身が大きくなってしまった。
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