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ドキドキハラハラのハロウィンナイト③

 頑張って練習したけど結局、元が男なので所々それが出ちゃって、なかなか上手くいかなかった。残りの2日間で、完璧にマスター出来るかどうか不安すぎて昼休みを使い、スーパーに顔を出してしまう始末。  日用品が売っている棚の奥に化粧品類が置いてあったので、そ知らぬ顔でゆっくりと通り過ぎながら、商品をチェックしてみた。 (せめて口紅の一本くらい買うことが出来たら、随分と顔の印象が変わる気がするんだけど)  亀並みの速度で通り過ぎながら、口紅を売っている陳列棚に目を走らせて、それに気がついた。  色つきリップなんていう物があるんだ。口紅よりも買いやすそうなパッケージをしているぞ。  立ち止まり、思いきってそれらを手にとって、まじまじと眺めてみる。スーツ姿の俺がそんな物を持っている姿は、傍から見たら奇異に映るかもしれないけれど、そんなことを考えている場合じゃない。  ……なになに、チェリーレッドとピーチピンクの二種類か――どっちが似合うだろう?  想像力のない自分には、これらをつけたところが全然思いつかなくて、ほとほと困り果ててしまった。ハロウィンのことで、昨日からずっと振り回されているから、尚更かもしれないな。 (そうだ、衣装のことを考えてみよう。自分の顔じゃなく、衣装に似合いそうな色を選べばいいや!)  ダンボールに入っていたのは、不思議の国のアリス風メイド服で、色は淡い水色をしていた。だから真っ赤な色つきリップは、浮いてしまう恐れがあるだろう。  このピーチピンクなら、純白のひらひらエプロンが可愛く見えてしまうかもしれない。  左手に持っていたチェリーレッドの商品を棚に戻し、勢いよく立ち上がった。単品でこれだけ買うのは恥ずかしいから、他に何か買わなきゃ……  気がつけば、お昼休みがギリギリの時間になっていて、慌ててスーパーを後にしたのだった。

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