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ドキドキハラハラのハロウィンナイト⑧
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情けないことにさっきまで、千秋の膝の上でお世話になっていた。
可憐な女装姿を目の当たりにしたせいか無駄に興奮したため、鼻血がなかなか止まらずにいた俺を介抱すべく、額に冷えピタを貼り付けられ、片鼻にティッシュを突っ込んだ状態で、膝枕をしてもらったんだ。
あ、一応補足しておくが、膝枕を強請ったわけではない。千秋自ら「ここに頭を乗せてください」って提案してきたから、それに従ったまでなので、あしからず!
「大丈夫? 穂高さん。なかなか鼻血が止まりませんね。ティッシュ変えますよ」
こんな風に介抱されたら、止まるものも止まらないだろう。たまにしてもらえる、膝枕の高級版といったところか。
下から見上げる千秋の姿はこれまた違う愛らしさがあって、胸がドキドキしてしまう。鼻血さえ出ていなければ、お腹に顔を押しつけて、ぎゅっとしてしまうだろうな。
(それが出来ないならば、せめてお尻くらい触っても……)
「穂高さんの鼻血、どうして止まらないんだろう。もしかして、病気だったりして……」
その声に動きかけた右手に拳を作って、そっと元に戻した。
こんなことをしたら余計に鼻血が止まらないだろうから、もっと心配させてしまう……。我慢せねば。
「千秋、済まない。せっかく俺を喜ばせようとそんな可愛い恰好をしてくれたのに、こんなことになってしまって」
思った以上に沈んだ声で告げてしまった言葉を聞き、一瞬だけ微妙な表情を浮かべた千秋だったが、口元に手をやり、すぐさま微笑みかけてきた。
いつもはしない、その女性らしい仕草に思わず目を奪われてしまう。
「まさか穂高さんが鼻血を出すなんて、思いもしませんでしたよ。そんなに、この格好が良かったですか?」
「ん……。ばっちりとしか言えないな。しかも格好だけじゃなく、所々に女性らしさを感じる。いつの間に、そんな仕草を習得したんだい?」
四六時中いたわけじゃないが一緒に暮らしていて、全然そんな素振りを見せなかったと思う。千秋は、いつも通りの千秋だった。
「種明かしをしちゃうと本当はこの格好じゃなく、ドラキュラ伯爵の衣装を注文していたんですよ。それなのに届いたのがこの衣装だったので、どうしようってなっちゃって……」
「へぇ、そうだったのか」
「仕方なく女装をすることにしたんですけど、見た目を何とかしてフォローしようと、3日間ほど女らしい仕草を勉強してみました」
耳に長い髪をかけて照れる千秋に、両手を伸ばして自分に引き寄せ、ちゅっと触れるだけのキスをした。鼻血が止まるまで、濃厚なのはお預けだな。
自分の身体の事情に苦笑いしながら、軽くため息をついて口を開く。
「しかし飛んだ誤算で今年のハロウィンは、目の保養になってしまったね。参った」
鼻の詰め物に指を差したら、千秋自ら顔を寄せてきて、額にくちびるを押しつける。冷えピタの上からのキスだから刺激は少ないが、とても優しいキスに心の中がじわりとあたたかくなっていくな。
「本当に参っちゃいました。こんなことになるなんて」
「看病ついでに、頼んでいいだろうか?」
「ふふ、何でしょう。一応メイドの格好なので、何でもしますよ」
Hなこと以外ですけどねと一言付け加えた千秋に、見事先手を打たれてしまった。
「……俺だって、そこまでバカじゃないさ。ますます鼻血が止まらなくなるからね。ご飯を食べさせてほしいだけだよ」
鼻に詰め物をしていれば滴ることがないから、何かしてやろうと考えたのに、あっさりと見透かされてしまったので、仕方なくそれを提案してみる。
「いいですよ。まずは冷めてしまったご飯を、温め直してきますね」
千秋が帰ってくる時間を聞いていたので、それに合わせてあらかじめ作っておいた夕飯が、俺の鼻血によりすっかり冷めてしまっていた。
炒飯に餃子、中華風のサラダに卵スープという料理なので、サラダ以外当然、熱々の方が美味しいに決まってはいるが――。
「このままで構わない。食べさせてくれ」
離れていた分だけ少しでも一緒にいたかったから、我儘を口にしてみる。
額を千秋のお腹にすりすりしながら、空いてる左手をぎゅっと握りしめてみた。
「ちょっ、いきなり何してるんですかっ?」
「何って、俺なりに譲歩しているのを表しているだけだが。鼻血さえ出ていなかったら、夕飯前に可愛い千秋を食べているところを、それよりも先に夕飯を食べるという提案をしただろ?」
「あっ、はい……」
じと目で見上げたら、頬を染め上げパチパチと瞬きをする。手が出せないせいなのか、ちょっとした仕草で、千秋がどんどん女性に見えてきてしまった。
「我慢している俺に、ご褒美が欲しいと思ってね」
「本当に、温め直さなくていいんですか?」
「ん……。食べる」
むくりと起き上がり、テーブルの前に正座をする。千秋がその横にスタンバイして、スプーンを手にした。
「ぷっ!! ふふふっ」
炒飯にスプーンを差し込みながら、いきなり吹き出す。
「どうしたんだい?」
「思い出しちゃって。付き合う前にはじめて、穂高さんを看病したこと」
「鼻水垂らして、千秋に付きまとったことだろうか?」
あのときは久しぶりの風邪をやり過ごそうと、必死になって鼻水を誤魔化していたっけ。
すんすんと鼻をすすってみたら大丈夫そうだったので鼻の詰め物を外し、ゴミ箱に投げ捨てた。
「そうそう。穂高さんってば熱があるのに無理して、俺と一緒に帰るなんて無理を言って、全然きかなかったですよね」
「だって熱があるとは思わなかったし。自分の具合なんか放っておいて、どうしても千秋と一緒にいたかったから」
スプーンですくった炒飯を俺の口元に運びながら、上目遣いで見つめてくる。
「今も昔も変わらずに、ワガママですよね。はい、どうぞ」
差し出してきたスプーンにかぶりついて、しっかりと咀嚼した。自分で作ったものなれど、千秋が食べさせてくれたから美味しく感じてしまう。
「穂高さんの鼻血、止まって良かった……。額の冷えピタ、外しましょうか?」
「ん……」
「痛くないように、ゆっくりっと。さて次は、何を食べますか?」
小首を傾げて訊ねてくる千秋を食べたいと言いたいのを何とか飲み込み、適当なローテーションで夕飯を食べさせてもらった。
次は俺が千秋に、サービスしてあげなくては、ね――
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