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―純血の絆―②その11

 銀髪を枕の上に散らしたまま縋るような眼差しで見つめられるだけでも、かなりヤバい――深紅色の瞳がルビーのように煌くせいで、煽られた気分になる。 「穂高さん、俺ね……」  ギシッというベッドの軋む音が耳に聞こえてきた。千秋に背を向けているので何をしているのか分からないが、多分起き上がったのだろう。聞こえてくる声の雰囲気でそれが伝わってくる。 「お父さんから話を聞いている最中に思ったのが、貴方と同じ立場になりたいって考えたんだ」 「同じ立場?」 「うん。穂高さんが抱える悩みを知りたかったし、力になりたいと思った。それと一緒に、人間である自分が嫌になったんだ。人よりも長く生きられる穂高さんの命を奪ってしまうことが、すっごく嫌だなって」  千秋……そんな風に思って、俺の血を飲んだというのか――。 「ただ血を与える存在だけじゃない。半分だけでもいいから同じ種族になって、穂高さんのつらさを分かち合いたかった。貴方を愛しているから」 「俺は千秋の苦しむ姿を見たくない! それなのにっ」  悲鳴に近い声で怒鳴りながら振り返った。ベッドの上にいる千秋は一糸まとわぬ姿になっていて、静かに俺を見上げた。  そのあまりの美しさは、おとぎ話に出てくる妖精のようだと瞬間的に思った。生命力の溢れる人間の姿とは一転した、儚げなヴァンパイアの様相――肌の色が白く見えるのは、深紅の瞳の赤が輝いているから。  千秋から漂ってくる妖気に当てられて、勝手にヴァンパイアの姿になってしまった。 「穂高さんが傍いれば、俺はどんなにつらいことでも乗り越えられる。絶対に人の血を飲まずに、吸血衝動をやり過ごしてみせるよ」  にっこりとほほ笑みながら、俺に向かって両腕を差し出してきた。 「貴方の愛さえあれば生きていける。お願い、穂高さん」 「駄目だ……。ヴァンパイア同士の性行為はどうなるか分からない。互いの唾液に含まれる催淫剤が混ざり合ったりしたら、それに溺れて抜け出せなくなるかもしれない」 「大丈夫だよ。だって俺は、完全な吸血鬼じゃないから」  千秋の告げた言葉が、渋る俺の意識を揺り動かす。足が勝手に動き出し、自分に向かって伸ばされている手を取ってしまった。その手を千秋が握りしめた瞬間、すごい力で引っ張られた揚げ句にベッドの上に仰向けにされた。 「穂高さん俺ね、もうひとつ思ったことがあったんだ」  素早く俺に跨り、深紅の瞳が見えないくらいににっこりとほほ笑む。  両手で顎を掴んで大きく口を開かせて、ゆっくりと顔を近づけてきた千秋。互いの牙が邪魔になるせいで、いつものようにくちづけができないから、こういうことをされたのが分かったのだが――その強引さが、彼らしくないと思わずにはいられない。 「吸血鬼になった俺に、穂高さんを溺れさせたいと思った。痺れるのとは違う、甘い衝動を感じてほしいなって」  言うなり千秋の舌が口内に差し込まれ、ぴちゃぴちゃと音を立てて俺の舌に絡んでくる。千秋から流れてくる唾液の味を感じた瞬間、下半身が一気に膨張していった。ズキンズキンと痛みを伴うくらいに張り詰めていき、今にも達してしまいそうだ。 「やめっ、ち、あきっ……それ以上は駄目、だっ」 (馬鹿な……。数時間前に千秋の中で出なくなるまで出しきったハズなのに、一切触れていない自身がこんな風になるなんて) 「俺のも穂高さんのせいで、勃っちゃってる。責任持って飲んでくれるんでしょ? だってコレが、貴方の生きる活力になるんだから」 「もちろ、ん、飲む、よ……」  今はヴァンパイアの姿でいる千秋のモノを飲んでも、無意味になることが分かっていたが断れなかった。妖艶な笑みで見つめられながら強請られたら、どんなことでも進んでやってしまう自分がいた。  千秋は自身を自らの手で扱きあげ、やがて苦悶の表情を浮かべながら俺の顔に向かって白濁をまき散らした。 「ごめんね、穂高さん。口に持って行こうとしたんだけど失敗しちゃった」 「……千秋、しれっとした顔で嘘をつくんじゃない。今の姿のモノが使えないことが分かって、俺の顔にぶちまけたんだろ?」  眉根を寄せながら手の甲で汚れた部分を拭い、舌で舐めとった。人間の千秋のモノを飲んだときは舌の上にそれが沁み込んでいく感覚があるのに、今はそれがなかった。やはりコレは無効ということか。 「なぁんだ、バレていたのか。さすがは俺の恋人って感じだね」  悪戯っ子のような笑みを残して躰の上から退くと、テーブルの上に置かれていた箱ティッシュを手に戻ってきて、俺の顔を丁寧に拭ってくれる。 「ヴァンパイアになった千秋は基本的な優しさは変わらないが、かなり意地悪な方面に卑猥度が増したかもしれないね。まるでサキュバスみたいだ」 「サキュバス?」 「ん……。別名は淫魔とも言われてる。千秋はコレが欲しくて全裸になり、俺を誘っただろ。その行為そのものがサキュバスと同じなんだよ」  千秋が両手に持っている物を床に放り捨てさせて、ベッドに引きずり込んだ。言葉で示したナニに触れさせながら顔を覗き込んでみる。 「穂高さんの、すごく大きくなってる」  喉をごくんと鳴らしながら、掠れた声をあげる千秋。スボンの上からぎゅっと握りしめて吐息を漏らした。 「誰がコレを大きくしたんだい?」 「俺……」 「だったら責任を取ってくれ、千秋。生きてる間ずっと愛してあげるから、君の血を与え続けてくれ」  俺の言葉を聞くと、ヴァンパイアの姿からいつもの人間の姿に変わった。 「穂高さん、俺を愛して……。ずっと抱きしめてほしいから」  切なげな笑みを浮かべる千秋を抱きしめながら、首元に咬みついた。  このあと行われるであろう蜜事のために、千秋の血をすすって生気を充填させた。こうでもしないと間違いなく、ヴァンパイア姿の千秋に負けてしまいそうだったから。  両方の千秋を満足させるべく、これから頑張っていこうと思う―― おしまい

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