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―純血の絆―②その10
抱きしめていた千秋の膝裏に腕を差し込み、力なくぐったりしたままの躰を横抱きにして、ふらつきそうになる足元を何とか踏ん張りながら立ち上がった。
「穂高……」
「父さん俺はこれから何度も、千秋が苦しむ姿を見なければならないんですね。俺の血を飲んだせいで」
俺と出逢ってしまったがために、千秋の運命を変えてしまった。そのことを考えるだけで、俺たちの明日(しょうらい)には光が見えないが、それでもこの手で彼を守っていく。それは自分のためじゃなく、千秋がいつでも笑っていられるように。
「自分だけを責めることはありません。私にもその責任があるのですから」
「ですが俺がヴァンパイアじゃなかったら、こんな苦しい目に遭わなくて済んだのに」
「穂高さ……、俺は嬉しいんだよ」
ひどく掠れた声が部屋に響いた。
ハッとして腕の中にいる千秋を見たら、人間の姿になりかけている彼が柔らかくほほ笑みかけていた。ルビーのように赤い瞳は片目だけで、それだけでも随分と印象が違って見えた。
「大丈夫ですか? 千秋」
父さんが心配そうに顔を覗き込みながら、両腕が塞がっている俺の代わりに千秋の前髪を撫でてくれた。
「まだ頭がくらくらしています。でも穂高さんがこうして抱きしめているから、さっきよりはマシになってます」
「千秋、どうして君は嬉しいなんてことが言えるんだ。本当は辛くて堪らないだろうに」
「穂高さんが思ってるような辛さはないから、そんな顔して心配しないで」
躰に感じる違和感を悟られないようにするためなのか、所々声を震わせながら心配するなと言うなんて、俺はどうしたらいいんだろうか。
「穂高、このままでいても彼が休まらないでしょうし、先ほど案内した部屋に連れていくといいでしょう。千秋、無理せずゆっくりしてくださいね」
父さんの言葉に頭を下げて、踵を返し部屋を出た。
玄関ホールにある螺旋階段を上りかけたとき、千秋が俺の首にぎゅっと縋りつく。密着した部分から人間らしいぬくもりを感じて、心から安堵した。
「穂高さん、俺を嫌いになった?」
階段を上りきって廊下を突き進んでいる途中に話しかけられた質問は、どうしてそんなことを訊ねてくるんだろうかというものだった。
あえてそれには答えずに扉を開けて電気をつけて、千秋の躰をベッドに横たえる。俺が手を放したというのに、首に絡めた両腕を使って離れないように拘束してきた。
「千秋?」
切なげに見開いていた瞳を閉じて数秒後に開いた千秋の様相は、最初に見たときのヴァンパイアの姿だった。
「こんな姿になった、俺を嫌いになった?」
「愛してるしか言ってないはずなのに、どうしてそんな質問をするんだい?」
「だって……」
ルビー色の両目がゆらゆらと揺らめき、まるで自分を誘っているような感覚に陥ってしまう。
「千秋、その姿を今すぐに解いてくれ。このままだと体調の悪い君を襲いかねない」
首に絡んでいる両腕を力任せに外し、慌てて背中を向けた。
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