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プロローグ
「やっぱ夏は海だよな」
坂崎春翔 はスマホのアルバイト情報画面を見ながら声に出して呟く。
大学1年2年と塾講師のバイトをしていた。3年となった今年、これから本格化する就活の事を考えると、はしゃげる夏は今年が最後と思う。
何より夏は次の恋を見つける最高の季節。
合コンで知り合った彼女と付き合って1年、どこか本気になれず1ヶ月前に自分から別れたばかりだった。
よし、リゾートホテルで泊まりバイトしよう。
7月初め、海水浴場が目の前にあるリゾートホテルに着く。案内された男子バイト部屋は和室で、ドアを開けると低い上がり框 とその向こうに障子があった。
春翔は深く考えずばっと障子をあける。途端に白い肌が目に飛び込んだ。驚いてこちらを振り返る上半身裸の…たぶん、男。
「あっ、ちょ、すいません。」
誰かが居るという意識がなかった春翔は慌てて謝る。
「バイトの人?今日から?」
白…。
脱いだばかりなのか着るところなのか、手元でシャツの裾を持っているその男の肌があまりに白く、思わず上半身を凝視してしまう。
「あの、バイトだよね?」
問い掛けに応えない春翔に少し怪訝 そうなニュアンスを含めて、男はもう一度尋ねてきた。
春翔は上半身から顔へと視線を動かし、再び凝視する。
顔も白…。なんだこの人、イケメンというか、綺麗な顔。
ホテルは海に面している。
ぎらつく太陽、熱い砂浜、波の音、大勢の海水浴客や真っ黒に焼けたライフセーバー、夏のイメージそのままの光景を目にしてここへ来た。
突然に現れた白い肌を持つ綺麗な男は、春翔の脳内を占めていた夏のイメージを音も無くさらりと奪い、意識の中心に置き換わる。
その男、咲田悠 とは、そこで出会った。
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