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覚醒
「春翔さん、急だけど今日の夜、バイト後に予定ある?」
ある日、春翔は泉に聞かれた。
「いや、特に無いけど、何?」
泉は185の体格に合わない小さな声で言う。
「実は杏ちゃんと会う約束が出来て」
「マジか!やったな」
「でも凛ちゃんが春翔さんと遊びたいから一緒に来て欲しいって、4人で遊ぼうって」
「あぁ…」
夏真っ盛りのリゾートホテルには、中居さんの手伝いで客室の食事並べや、掃除する女子バイトも大勢雇われている。
中でも杏と凛という二人が可愛いと、男子バイトの中で評判になっていた。
泉が本気で杏を好きで、アタックしていたのを春翔は知っている。応援したいと思う。
そして杏の友達の凛が、実は春翔を好きというのは、以前から耳に入っていた。
可愛い女子から好意を寄せられて、喜ぶところだけど気乗りしない。
「ごめんね。悠さん狙いなの知ってるけど、今日だけ俺に協力して」
泉の言葉に春翔は動きが止まる。
「悠さん狙いって、何?」
「誤魔化しても無理ですよ。悠さん大好きオーラだだ漏れなのに」
「ばっ、何言って、悠さん男じゃないか」
「関係ある?そこ」
「あるだろ、大事だろ」
「何が大事?結婚して、子ども作って、みたいなこと?」
「えっそれは…」
泉の指摘にこたえられない。
「春翔さん、俺は子どもが欲しくて杏ちゃんと付き合いたいんじゃなく、杏ちゃんが好きだから付き合いたい、好きってそういう事じゃないの?」
ああ…そうか。
俺は、いったい何に拘って いるんだろう。
「お前…泉、お前ってなんか凄いな。尊敬する」
「T大の人に尊敬される事なんか言ってないけど。好きなら頑張れば良いのにって、シンプルに思ってる。拓も言ってるし」
「拓にも言われてんの?俺、そんなにあからさま?」
「ははっ、悠さんしか見てないじゃん。俺がちょっと悠さん手伝うだけでめっさ不機嫌なるし」
そうかダダ漏れか…ていうか、俺は悠さんが好きなのか、そうか…。
泉の言葉が春翔を覚醒させる。
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