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混沌

「悠さん、やっぱ行かない?」 朝食時の仕事を終えると、次の夕食時までだいたい6時間くらいが空き時間。その間にバイト達は海に行く。 悠は焼けると火傷みたいになると言い、行かない。日常の暮らしでも外に出る時は日焼け止めを塗るんだ、男としては情け無いけどね、なんて笑う。 汗も苦手らしく、夜のバイト後はすぐシャワーを浴びる。 客の最終チェックアウトの午前10時以降は浴場も掃除時間。その為朝バイト後は、汗拭きシートで拭いてシャツだけ着替える。 春翔が最初に目にしたのも、バイト後の着替え中だった。 肌全般弱いらしく、ハンドクリームもかかさない。 指も細く長く、クリームを塗り両手を擦り合わせる仕草すら綺麗に見える。薬学部だという悠の白衣姿をつい想像してしまう。 「1回くらい一緒に行こう、悠さん」 「いいから拓、みんなで行っといで」 悠は毎回笑顔で断る。 黙っていると整い過ぎて近寄りがたい雰囲気を放つ悠だが、実は表情豊かでよく笑う。 笑うと綺麗というより可愛い。 悠の肌が弱いのは、太陽や塩水でその美しさを傷めてしまわないよう、神様がわざとそうしたのではないかとさえ思う。 海に行くより悠と一緒にいたい、ついそう思ってしまう事に対する警告音が脳内で響く。 大学3年の今年、就活や卒論に追われる前に遊ぶ、恋も見つける、そんな気持ちでここへ来た。 なのに気づくと悠を追っている、男の悠を。 違う、有り得ない。 「泉、拓、行こう。時間無くなる」 同性を好きになる、それはないと自分に言い聞かせるように、春翔は殊更大声を出し海に向かった。

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