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第1話

 ウチの高校は郊外にあるごく普通の私立進学校で、これといった特色もない。  制服も全国的にありがちのブレザーだし、学食の味も値段も普通。運動部も大した成績を上げてはいない。学力的にもバカ高校ではないが、これまで東大に行った奴なんていないし、これから先もないと思われる。しかし、ここ最近この地域ではちょっと有名となった。  一昨年、俺が入学した時、入試の倍率は一.四倍だった。その次の年は三.四倍。そして今年の入学生は、なんと四〇倍もの倍率を勝ち抜いてきたのだ。この少子化の時代に。  その理由は、現在二年生にいる。  キャイキャイ女子の黄色い声が湧く通学路に、俺は彼の姿を発見した。 「わっ!凛哉(りんや)だぁ…ヤバイ、朝から超ラッキーなんですけど!」 「いつ見てもマジカッコイイ~!」  すぐ側を歩いていた女の子の囁き合う言葉に、俺は内心でこっそり同意した。  ――すげーすげー!俺、今、ゲーノー人と同じ通学路歩ってる!すっげー!  二学年に在籍する佐藤凛哉――彼は、『凛哉』という名で活躍する若手俳優である。  十四歳からモデルを始め、同じ歳にドラマデビュー。その演技力は業界屈指、さらには整った甘い顔立ちは成長につれて女性を魅了する雄臭さも兼ね備えたものとなってきており、主演こそまだだが、今後の活躍が期待されている一番の注目株――と、なんとかって雑誌に書いてあった。  そんな凛哉が、誰もが都心部の有名人が集う学校に入学すると思っていた中、何を考えたのかこんな辺鄙な私立校を受験し、しかも入学を決めたという事実。  すでに通っていた俺は、この事実に大いに喜んだ。だって、首都とは名ばかりの田舎に住む俺は、芸能人なんて生で見たことがなかったのだから。  とはいっても、やはり売り出し中の凛哉はそれなりに忙しいようで、学校は休みがちだし、時間通りに登校するのも珍しい。それに、来たら来たで、騒ぎにならないようにと取り仕切っている恐い女の子たちがいて、近寄るのはおろか、学年が違う俺は見かけることすらなかなかない。  いやでも、やはり、オーラが違う。遠いし人壁に阻まれて良く見えないけど、何かすごいキラキラしいオーラがあるよ流石ゲーノー人。  そうしてちらちらと盗み見ている内に、彼の人は女子に囲まれたまま校舎の中へと消えていった。  俺は興奮冷めやらぬうちに教室に駆け込むと、友人の志水(しみず)を見つけて飛びついた。机に突っ伏している志水の肩を思い切り揺らす。 「志水志水!聞いてよ俺朝から生凛哉見ちゃった!すっげーの、もう女の子侍らせてキラキラオーラ振りま…ぶっ!いたたたたたたたっ!痛いっ!すごく痛いっ!」  芸能人に遭遇した喜びを伝えてやろうとした俺の顔面は、ガッと大きな掌で掴まれた。そのままぐぐっと食い込んだ指に力を込められ、俺はあまりの痛みに机を叩きながら叫んだ。  するとするりと手が外され、志水の据わった目が見えた。  ひぃ、怖い…! 「――朝は?」  そう訊ねてくるどすの利いた志水の声に、思いだした。志水は低血圧で朝に弱い。うるさくするなと言われている。 「おわわわ、おはようございますっ!騒いですみませんでしたーっ!!」  土下座せんばかりの勢いで俺は謝り倒し、すごすごと隣の自分の席へと着いた。志水はふんっと鼻を鳴らし、うつぶせた。また寝るのだろうか。  ああ、でも、この感動を誰かに伝えたいのに、ちょっとでいいから聞いて欲しいのに、自慢したいのに。俺、このクラスにまだ馴染めてないから友達志水だけなのに。  いや、この機会に友人を増やそう。俺はクラスを見渡した。クラスメイト達は結構来ている。グループで話をしている人たちに入っていける自信はない。一人の人は、自習してる。「俺さっき生凛哉見たんだぜイェーイ」なんて言える雰囲気じゃない。女子に話しかける勇気はない。 「……志水ぅ、志水さーん…ねえ、ねぇ、志水ぅ、聞いてよ~」  結局俺は、横で寝る志水をツンツンとつついた。多少…いや、かなり怒られたっていいもんね! 「…うっぜぇ…話聞いて欲しけりゃコーヒー買ってこい…」 「わかった!!」  顔も上げないまま告げられた言葉に、俺は即座に財布を手に立ちあがった。志水の好みは把握している。無糖ブラック! 「ふーん」  俺の買ってきたコーヒーを啜りながら、興奮のままにしゃべる俺の話を聞き終えた志水の反応がこれだ。 「ちょっ…反応薄い!芸能人だよゲーノー人!全国ネットのテレビ出てる人だよ!すごい!」 「つーか、見かけただけでそこまで興奮できるのがすごい。お前、別に凛哉のファンでもねーんだろが」 「え、うん、まあ…」  凛哉が出たドラマは十数本あるが、俺が見たことあるのは一本だけだし(それも凛哉目当てで見ていたわけじゃない)、モデルをしている雑誌も持ってない。 「ホント、お前ってミーハーだよな。日本人の典型みたいな奴」 「うぐぐ…でも、お前だって、実物見たら興奮するって!何かオーラあるもん!」 「興味ねぇし、見たって何も思わない。あと『もん』とか言うなキモイ」  つんと断言した志水はクールだ。ムカつく。ムカつくが、多分本当に志水は騒いだりしないのだろう。  何と言ったって志水も美形の部類だ。凛哉に比べれば少し劣るのかもしれないが、目鼻立ちもいいし実際もてる。センスは良いし、俺だって髪型とか服とかアドバイスもらってるし。意地は悪いが何だかんだで面倒見いいし。 「ぐぬぬぅ……返せー!コーヒー返せー!ばか志水ー!」  唇を噛みしめながら訴えれば、 「ほらよ」  空き缶が投げ返された。  酷い、酷すぎる、友達がいのない奴め!  飄々としたその顔にスチール缶をぶつけてやろうとしたら、丁度担任が入ってきた。仕方なく俺は缶を握りしめることで怒りをなんとか落ちつけたのだった。  昼休み、俺は一人で購買へ向かい、昼食場所を探して校内を彷徨った。  いつもは志水と教室か学食で食べるけど、今朝の仕打ちがあまりにも酷かったので置いてきた。俺が怒っているということを知らしめてやるのだ。志水は一人寂しく食べるがいい。  とはいえ、俺も志水以外に友達いないから一人だけど。だから一人でも寂しくない場所でこっそり食べるんだい。 「ここ入れるのかな…」  俺が辿り着いたのは、今は使われていない旧校舎だ。旧校舎と言ってもまだまだ綺麗で、少しリフォームして部活動に使う予定らしい。今はまだ業者が入っていないそこは、すごく静かだ。  渡り廊下に繋がる入口にはしっかり施錠がしてあり、俺は一縷の望みをかけて校舎裏に回り、廊下ではなく特別教室に直接つながった扉に手を掛けた。 「おっ!」  意外にも、そこはすんなりと開いた。 「ラッキー、やっぱ俺、今日運勢いいのかもー」  ふんふんと自作の鼻歌を歌いながら、俺はその扉をくぐった。教室の中には物はあまりなく、端っこに机と椅子が数個積み重ねられているくらいだ。でも、埃っぽくもないし、床に座ればいいからなにも問題ない。  さて、どの位置に座ろうか。俺は日当たりを考えながら教室を見渡し、ぎくりと動きを止めた。  そこに先客が居たからだ。しかも只の先客じゃない。 「り、凛哉……!?」  芸能人様が、教室の隅の角にもたれるように座り、すうすうと寝息を立てている。  すごい、今日二回目の遭遇だ!しかも、こんなに間近で見るの初めてだ……!  驚きつつも、俺はこんなチャンス滅多にないと、そのお綺麗な顔を凝視した。  閉じられた瞼は長いまつ毛に縁取られ、すっと通った高い鼻、薄い唇が奇跡的なバランスで乗っかっている。肌にはニキビ一つなくて、つやっつやだ。さらさらした栗色の髪は陽の光を受けてキラキラと輝いていた。 「んん……?」  凛哉が身動ぎ、俺は慌てた。ヤバイ、起こしてしまったか。  逃げようかと身をひるがえす前に、凛哉の瞳が開かれた。ばちっと目が合った瞬間、俺は全く動けなくなった。 「……誰?」 「あ、えっと、俺、その……」  寝起きの凛哉は気だるげで、妙な色気をむんむんと出している。それにあてられた俺は、あわあわと口を開閉させるしかできない。 「んー?ま、いいや。こっち来て」  座ったままの凛哉が、ちょいちょいと手招きをする。俺は火に寄せられる羽虫のごとく、ふらふらと近付いていった。  目の前でぴたっと立ち止ると、まじまじと見つめられた。その瞳は髪と同じで色素が薄く、綺麗な榛色だ。髪は染めているのかと思っていたが、もしかしたら地毛なのかもしれない。  しばらく無言で凝視されて、俺は耐えきれずぎゅっと目を瞑った。心臓が口から飛び出るんじゃないかと思うくらい緊張する。 「いいね」  ややあって、凛哉の薄い唇からそんな言葉が漏れた。いいって、何が? 「ねえ、センパイ。ゴム持ってる?」 「へ?」  うっすらと目を開けば、凛哉はこてんと首を傾げている。流石芸能人様、可愛い女子供にしか許されないようなポーズでも様になっている。  てか、俺が先輩ってなんで知って……あ、襟章の色でわかったのか。 「ご、ゴム?持ってない、です」  輪ゴムなんてめったに使わないし、持ち歩いたりしない。 「そっかぁ…俺持ってたかなぁ……」  凛哉はそう言って、ごそごそと制服のポケットを漁りだした。  しまった。ゴムを持っていれば、俺は芸能人にゴムをあげた男になれたのに!志水に自慢できたのに! 「お、やったね、あったあった」  そうにこやかに言った凛哉がポケットから取り出したのは、確かにゴムはゴムだが、俺の認識とは違っていた。  プラ袋に包まれたそれは童貞の俺とは縁遠い、避妊具だ。  驚きに目を丸くしていると、凛哉の右手が延びて俺の左手を掴んだ。そのままするりと撫でられて、思わず持っていた昼食の袋を床に落としてしまった。 「えっ?えっ?」  つぶれたコロッケパンを気にする余裕もなく、俺はただ目を白黒させた。 「センパイ」  下から上目遣いに顔を覗きこまれ、俺は視線を逸らすことができなかった。 「ねえ、気持ちいいことしない?」  蠱惑的な笑みでそう誘われ、志水曰く「日本人の典型」な俺がノーと言えるわけがなかった。  とはいえ、俺はホモではないし、女の子とすら付き合ったこともない童貞で。  怒濤の展開に、そこから先は記憶がおぼろげだ。  生まれて初めて乳首を吸われた気がするし、生まれて初めて他人に息子を触られた気がするし、生まれて初めて男のモノを舐めた気がするし、生まれて初めてケツの穴に指を入れられた気がする。  とにかく初めてづくしで、気が付けば俺は半裸で凛哉の上に跨がり、ケツの穴に彼のイチモツを受け入れてひたすら腰をふっていた。 「ふっ……すごいね、そんなに…イイの?」 「んっ、はひっ、はいぃぃ…気持ちぃっ…気持ちいれす…っ!」  俺の尻の穴ってすごい。  だって、平均サイズの俺のモノよりデカイ凛哉のチンコを根本まで咥え込んでおきながら、きゅんきゅんと締め付けては快感を貪っているのだから。  痛みがまるでないのは、凛哉が上手いからなのだろうか。長い指でぐちゃぐちゃに解されたせいだろうか。 「俺もいい……」  耳元で凛哉が囁く。その声は少し上ずっていて、色っぽさにぞくぞくと背筋が震え、また中に食んだ凛哉のモノを思い切り締め付けてしまった。  その直後、急に凛哉が腰をぐんと突き上げてきた。 「ひぃっ!あぁ…!」 「ほら、もっと腰ふってよ、センパイ」 「んっ、あ、ああ、だめ、もぉ……だめぇ…!」  言われるままにがむしゃらに腰をふると、合わせて凛哉も中を抉るようにずんずんと突き上げてくる。  中のいいところを熱いモノでごりごりと擦られると、射精感がつのり、先端がひくひくと震える。だけどイクことはできなくて、左手で凛哉の肩に捕まり、右手を自分のモノに添えた。 「イヤラシイなぁ」 「あっあっ、だって……!も、イキたいぃ…!」  見咎めた凛哉にフっと笑われたけど、俺は手を止めることができなかった。  ぬるつく先端をくじりながらぬるつく幹を強く擦りあげる。ただただ登りつめたくて、みっともないとか浅ましいとかなかった。 「うんっ…あ、あ……―――!!」  びくん、と大きく体が跳ねて、頭が真っ白になった。今まで感じたこともない頂点に、声にならない悲鳴が上がった。力が入らず俺は凛哉にしなだれた。俺の吐きだした精液が凛哉の腹に付いたとか、気にする余裕もない。 「やっ、やぁ…も、待ってぇ……お願い、だから…待ってってばぁあ…!」  けいれんを起こしたように体は震え、言うことを聞かない。強烈な快感が尾を引いて、ほんのわずかな刺激でさえ直接神経を撫でられているようにキツイのに、凛哉は下から突き上げる腰を止めてはくれない。 「無理、むり……っひ、ぃぃ…」 「俺、もうちょっと……ナカ、すげーうねっていい…っ」  むしろ、ラストスパートとばかりに激しくなっていく。 「んっ…ふ、ぅ……っ」  凛哉が俺をぎゅうと掻き抱いて、一際熱い吐息を零した。中で締めつけていた物がビクンと脈打つのがわかった。やっとイってくれた。 「はぁ…んっ」  ずるり、と中に入っていたモノが引き抜かれる。その感覚に勃ってもなかった俺のチンコからとろりと精液が漏れた。もう、何もかも意味がわからない。  俺はどさりと仰向けに倒れ、はぁはぁと必死で呼吸した。凛哉は全く消耗していない様子で、ちゃっちゃとゴムを外して縛っている。  ぽい、とゴムを投げ捨てた凛哉がこちらを見た。バチッと目があって、ドキリと心臓が跳ねた。  するりと猫のように動いた凛哉が、俺の上に覆いかぶさってくる。 「もう一回……あ、ゴムもうないから、生でしていい?」 「えっ……も、無理、死ぬ……っ」  ふるふると首を振って、俺は必死に拒否した。気持ち良かったけど、これ以上したら死ぬ。確実に死ぬ。今なお火照った体は鋭敏だ。 「でも俺…もう一回したいな……ねえ、ダメ?」  きゅ、と眉根を寄せた凛哉が、甘えたように俺を伺う。その額にはうっすらと汗が浮かんでいて、肌は上気している。  何て表現したらいいのだろう、表情は可愛らしくもあり、雰囲気は男らしさもあり、凄艶で。とにもかくにもやっぱりイケメンで。 「ダメ……じゃない、れす……」  俺がバカなんじゃない、キラキラオーラが悪いのだ。

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