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第1話

「寒い……誰か……」  誰もいない深夜の荒野でセナは蹲っていた。遠くから狼の遠吠えが聞こえる。 ──このまま……死ぬんだ……。  意識が揺れる。もう、どのくらい時が経ったのだろう。気がつくと遠くにいたはずの狼たちがセナの周りを囲んでいた。もう終わりだ。薄い三日月に照らされ無数の影が蠢いている。なす術もなくただそれを見つめていると。  突然漆黒の闇が目の前に広がった。  大きく広がる羽。妖しく光る紅玉色の瞳が揺れ、冷たい両手が攫うように自分を包み込む。息を荒げた狼の群れが襲いかかってきた瞬間、セナはその得体の知れない何かに抱かれ地上から浮いていた。 「……助けて……」  浮遊する感覚に身を委ねて、セナは意識を手放していた。

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