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ありがちなレクイエム 2 ※

「あ、やっ、ぁ、だめです、てぇ!」  本多は小牧原のぐしゃぐしゃになっている顔を楽しそうに見つめながら、小牧原の可愛らしいものを扱く。パープルを帯びたピンクの、ファンシーな色合いをしている。何者かから贈られたハリネズミのマスコットと同じくらいの大きさだ。 「かわいいんですね」 「っあ!やらぁ、っあ!だめれ、しゅ、あんっ」 「声すごいんですね」  水に上げた魚のように小牧原は床に背や臀部を叩き付けて悶える。 「ちがァ、ああっ、ぅん!ぉほ、ぁあ!」 「もしかしてバカにしてます?」  特に赤みの強い先端を強めに親指で擦り、蜜を溢れさせている小さな穴を塞ぐ。本多は端整な顔を薄気味悪い笑顔で歪めた。先端に刺激を集中させ、手を動かす。肌蹴た胸。2点が本多を誘っている。だが今は、ダイレクトな男の悦びに浸らせてみたい。 「かわいいなぁ」  小牧原の薄い手が本多の手首に触れた。湿った手が子どものようだった。 「だぁ、なぁ、ぁん、ぁっ、れの、くっ、ぅん」  小牧原が高い喘ぎ声の中で本多の名を呼んだ。 「はぁい。礼信(れの)くんはここにいます」 「なぁ、んでこ、ゆこ、とッぁ、するんん、のっぉ、」  手首を掴む小牧原の手が本多の手を止めようと揉むように動く。いじらしい。 「気持ち悪いからです。あなたが。それ以外にありますか?身の程を知れよって感じですね」  快感で精一杯の小牧原の潤んだ瞳が瓶底眼鏡との間から本多を見た。悲しみと怒り。 「なんですかその目」 「ッぁん…!」  胸の突起を抓る。痛くしたつもりが小牧原には甘い感覚として受け取られた。 「情けないと思わないんですか?好きな女の弟にイイようにされて…でもその前に手紙とか贈り物で攻めて行こうって魂胆が一番気持ち悪い」  気持ち悪い。けれどこの男の乱れる姿が見たい。快感に喘ぐ声が聞きたい。躍起になって小牧原の小さいものを扱いた。 「ぁぅ、出る、やだァ、出る、出る!」 「出したらいいじゃないですか。好きな人とは結ばれない可哀想なあなたの精子、僕に見せてくださいよ」 「っあぁ!や、らぁ、手止めて、とめてぇ、!」  小牧原が真っ赤になった怯え顔を振った。そろそろ切る頃の髪がしゃらしゃらなる。 「出してくださいよ。男の手で!好きな女の弟の手でイけよ!変態ストーカー野郎!」 「やァ、あ、ああ…だめ、出る、ぁあっ…」  勢いのない白濁が小牧原の痩せた腹の上に落ちる。腰が何度か浮かんだ。本多の指に少量、ヨーグルトの上澄みによく似た液体が付く。拭くのも面倒で本多は舐めとった。ヨーグルトの味ではない。 「ひ、どいよ…ひど…ぃ…」 「何が酷いものですか。気持ち悪い手紙、ぬいぐるみ。花束、なんか流行りのお菓子。今時の女はこんなのじゃ喜びませんよ…姉さんにどんな理想持ってるんです?思考回路までドーテーなんですか?」  小牧原はひどい、ひどいと繰り返して泣いている。 「まぁ童貞、いいと思いますよ。自分の(つがい)を見極めきれないバカよりは。ただあなたも釣り合わない相手に焦がれちゃって、頭悪いんですね」  小牧原は局部と上半身を露出したままだった。 「で、で、でもでも、おおおおれにだ、だって、す、すす好きでいていい、け、けけけ、権利だって…!」 「そんなものあるわけないでしょう」  小牧原に覆い被さる。唾液で濡れた唇を塞ぐ。甘い。柔らかい。舌で中を啜り、わざとらしく水音を立てる。小牧原の小さく震える肩を掴む。肌蹴た素肌に密着した。 「ァ、んくっ、ふ、はぁ、ぁンっ…っ」  小牧原は苦しそうだった。だが漏れる吐息に混じった声は艶やかだ。舌が触れ合うたび身動ぐ。大胆に絡めると肩が跳ねた。 「こんな感じやすい身体で女抱くとか無理じゃないですか?僕ならあなたが1人で先イっちゃってもドン引いたりしませんし」  何今の。告白みたいじゃない?  言ってしまってから本多は小牧原を力強く見つめる。だが小牧原はきちんと聞いていなかったらしく深い口付けに酔ったままだ。 「っ、れ、のく…」 「なんです?」  へひへひ呼吸しながら小牧原は立ち上がって本多の肩を掴んだ。 「へ、へや…へやへや…部屋に、き、ききっ、き来て…」  吐息交じりに言われ、落ち着いていた本多の半身に元気が湧いてしまう。 「誘って、るんですか」  前のめりになって本多は小牧原の小さな顔を掬い上げる。唇をなぞった。 「お、おね、おねおね、お願い…っ、お願いしま、します…」 「じゃあ、最後までやっていいんだ…?」  否定しそうな口に親指を入れた。  本多は小さく舌打ちをして下半身裸のまま土下座する小牧原を視界から外した。 「ビョーキなんじゃないですか」 「おおおお、おね、おねが、お願いします!」 「…それして、僕になんかメリットあります?」  小牧原は頭を下げたまま何も言わない。 「ビョーキですよ。ビョーキ」 「…な、な、な、なななななんでも、なんでもしま、さ、させ、させていただきます…!」 「プライドないんですか?あ~あ、これは(ふっと)いお注射打たなきゃ…ですね?」  本多は陰湿な笑みを浮かべてジーンズとパーカーを脱ぐ。男同士だ。恥ずかしがるのとはない。だが小牧原は、きゃあ、と声を上げた。小牧原が出したロング丈のメイド服を手に取った。フリルをふんだんに使ったエプロン。黒を基調としたドレスの裾からは溢れ出んばかりのレースとフリルのレイヤーがあしらわれた裏地。本多美人姉弟の髪色に酷似した、毛先の巻かれた長いウィッグ。そしてエプロンに縫い付けられているフリルと同じタイプのフリルが重すぎるほどのヘッドドレス。それらを身に付けていく。 「は、はぁ、ぁっ、ああっ…!」  小牧原の瓶底眼鏡の奥の瞳が輝く。喘ぎ声を漏らしてドレスを身に付ける本多の背を見つめている。大きいサイズなのか本多の肩幅に合う。丈も最も長いフリルの先が踝の少し上の辺りまで届く。 「最高だ!最高だ!最高だ!」  本多は背のジッパーが届かないため小牧原を呼ぼうとしたが、両手を取られて握られた。 「美しい…」  きらきら、と音がしそうなほどの麗らかさで小牧原は本多を見上げた。髪さえ切れば、もしかしたら本多もときめいてしまったかも知れない。 「ひとついいですか?これ、なんでサイズ合うんです?」 「はぁ…素敵だ…っ、そ、そそそれは、そのメ、メイド服はれ…礼信(れの)くんにあ、あうあう、合うようにつ、作ったからだよ…」  小牧原はうっとりしている。本多は小牧原が本多の名を呼ぶ時に噛んだことが気に掛かった。姉の名を呼ぶつもりだったのではないかと思うと苛立つ。 「なんでですか?っていうか作ったって…」 「ああ…完璧だ…、フリルの量も…」  小牧原は本多が被るウィッグのカールした毛先を指に絡ませる。 「小牧原さん」  人工髪をいじる手を掴む。小牧原の身が固まった。 「…っ、そそ、そそそそうだね、くくく口紅だ!…ロロ、ローズピンクなんていかいか、いか、いかがだろう」  本多の手を振り払って、整頓された部屋から小牧原は蛇の皮を思わせる質感のボックスを出した。 「小牧原さん?」 「い、いいい、妹がえ、えええ演劇に興味がある、か、ら、なん、なんなんなんとなく、れ、れれれ、礼信(れの)くんのもしさ、しさしさ、試作した、だけ…」  小牧原は背を向けたまま口紅を選ぶ。怯えるように本多の前に立つと、背伸びをして口紅を先端が小さな刷毛のようになった細い筒で撫でる。背伸びをする小牧原が愛らしかったが可哀想に思えて本多は身を屈めた。口紅から色を取った刷毛で本多の唇を塗る。 「かわいい…」  小牧原は小さくへにゃりと笑った。瞬間、本多は小牧原を抱き締めてしまう。 「ご主人様」  両腕に納まる小さく薄い身体。 「身体が熱くて堪らないんですぅ」  小牧原の眼鏡を外し抱え上げ、小牧原のベッドに下ろす。そして乗り上げる。股を開くとドレスが小牧原の布団のようだった。フリルのギャザーが小牧原の腹の上に広がる。 「な、そそそ、そんな、はし、はしはし、はしたな…っひゃんっ」  小牧原の前髪を額から上げて撫で付ける。露わになった額に唇を落とすとピンク色が綺麗にキスマークになった。 「だ、だだ、だめぇ…っ、」  本多のスカートの下で小牧原の脚が動く。臀部に小さな猛りを感じた。本多は若干の不本意さを感じたが気にせず小牧原の頬や口元、首筋に唇を落とし口紅の跡を付けていく。開きっぱなしの胸元に辿り着くと、小牧原の性感帯と化した2点にも入念に唇を押し当て、薄紅色の上から鮮やかピンクを塗り付ける。 「っあ、ぁア、」  突起を甘噛みすると小牧原の手がシーツを掴んだ。横腹と、臍、そして丸出しの下腹部。小さな肉にキスしてから口に入れた。人工的な髪が小牧原の内腿を擽り、本多の口に入った。 「ちょ、っぁあ、そん、なァ…っ!」  小牧原の腰が浮く。手が本多の人工髪を掴む。ベッドドレスが外れそうだ。 「ご主人様?」  口を放して小牧原を窺って、わざとらしく首を傾げる。下唇に触れた少し膨れた小牧原のものがまた少し大きくなった。 「いやらしい味がします」  ぐぽっ… 「ぁ、やらァ、あっ、はん、」  音を立てる。小牧原の腰が快感を逃そうと腰を突き上げ、本多の口内に入ってくる。 「ご主人様」  本多の唾液で光る肉幹を扱きながら小牧原を呼ぶ。 「はっ、んん、ぁ、あ、だめ、やだ…」  小牧原が上体を起こす。本多は小牧原の果実の奥の窄まりを指で弄(まさぐ)った。手の甲を隠せるほど袖に溢れたフリルを何度も捲る。 「ぁっ!待って、だめ!だめ、やだぁ、それやだ…っ!」 「ご主人様…?ここを何に使うかご存知なんですね」  固く閉じる粘膜の周りを柔らかく指で突く。ひくひくと蠢いている。やだ、やだ、と小牧原は頭を振った。強くシーツを掴む。 「ぁあん、だめっ、やだァ、やだァ、ああ…!」  本多が思ったよりも柔らかく窄まりは本多の指を飲み込んだ。本多は驚いた。目をぱちぱちさせて手の甲を噛みはじめた小牧原を見る。既に誰かと肉体関係があるのだろうか。小牧原の口を塞ぐ手を引き剥がし、小牧原の蕩けた顔と見つめ合う。本多の顔を見た途端、より一層小牧原の目はとろんと虚ろになる。 「おし、りは…すぐ、イッちゃうから…」  カールした毛先に頬擦りして本多を見上げる。 「ご主人様、それなら何度もイってくださいませ」  怯えた目。だが無視した。思っていた以上に緩んだ蕾に指を入れる。親指以外の4本がそう時間を掛けずに入ってしまった。生温かさが心地よく、中の襞をしつこく嬲る。長く入っていた薬指の腹はふやけていた。 「はひっ、ぁっあ、あぅん、っ」  小牧原は身を捩らせる。ベッドに放り投げたジーンズから車の鍵に付けられたウサギのマスコットを引っ張る。背にファスナーが付いていて、中には小さなアルミの袋が入っていた。カードと見紛うほど小さい。面積はその半分より少し狭いくらいだ。小牧原はやだ、と小さく呟く。 「聞けません」 「あっ、やだ、中に…欲し…からっ…ゴムや、だっァ、あっ…」  ハリネズミのマスコットと同じように見知らない人物から贈られてきたウサギの小物入れストラップを投げる。ぶつん、と頭の中の何が切れてしまった。 「自分で何言ってるか、分かってます…?」  フリルに包まれ質の良いシックなメイド服を身に纏って、艶やかな縦巻きロールの人工髪を揺らす美麗な外観に合わない、掠れた低い声が出た。流したてもりで流される本多をウサギのストラップが刺繍の死んだ目で見つめている。  本多はフリルとレースだらけのロング丈の裾を捲り揚げる。下に履いているの男性物の下着であるのに首を持ち上げた小牧原は股間のものを震わせる。本多は1、2度だけドレスの下から露わになった自身を擦り上げて、小牧原の秘壺に当てた。 「そ、んな…あ…あァ…っ、礼信(れの)くっ…ああ、っ」  本多は一呼吸入れて大きく腰を進めた。簡単に呑み込んでいく。他の侵入者を疑うほどの容易さ。柔らかさ。 「小牧原さッ、もしかして、僕以外に誰か連れ込んでるんですか…っ」  小牧原が本多を何度も締め付け、挿入の負担を呼吸で和らげている。その度に蕩ける快感が本多を襲う。 「はっ、ああ…っ」  本多の憂いなど露知らず小牧原は虚ろな目を潤ませ、頬を赤くして涎を零す。本多は小牧原の腰を掴んだ。小牧原の視界に入るように腰を上げさせる。 「あ、礼信(れの)く、れのく、れの…ぁあ、やっ、ァンっ」  長い人工髪が小牧原の両頬に触れながらシーツの上で踊る。本多には自分以外の誰かが、しかも女が小牧原を抱いているように見えてしまった。悪趣味な仮想現実感(ヴァーチャルリアリティ)。だがこの奇妙さは悪くはないと思った。 「姉さんの名前呼んでくださいよ…!男のクセに姉さんに抱かれてヨガる変態って、証明してみてくださいよ」  本多は小牧原を揺さぶった。突くたびに締め上げ、引くたびに奥深く誘い込もうとする。脳味噌が沸騰したのかも知れない。小牧原はシーツを引っ掻いて首を振る。髪が暴れた。 「呼んでくださいよ…!呼んで!」  小牧原は嫌々と首を振った。 「小牧原さん」  小牧原の前のマスコットのような象徴を掴む。根本を親指と人差し指で握り込む。 「いたぃ、いやぁ、やめ、っあん、あっ…」  挿入したままだが動きを止める。片手で小牧原の前のものを掴み、片手で小さな完熟を撫でる。先端を掌の窪みを使って抉るように擦ると腰が跳ね、本多を力強く絞り、痛みへの直前の苛烈な快感をもたらす。小牧原は身悶え、逃げようとする。だが捩じ伏せる。量の多いフリルはまるで小牧原を労わるように肌に触れた。 「礼…信…く…ァ、あっ」  掠れた声が呼ぶ。 「れの、くんに作ったドレスだから、れのくんだもん…」  小牧原は本多の手をそっと取る。花束をぶつけるようにフリルが無遠慮に小牧原の頬を叩いた。 「姉さんには渡さない!小牧原さん、僕のこと好きになってよ!僕のこと、好きにして!僕のこと想像して、オナニーしてよ!」  本多は小牧原を抱き締める。密着して奥まで突き入れる。肌を潰すように合わさって、掻き回す。 「あっ…やだ、だめぇ、そんな、っ…!そんな、したら…ッ」 「ッ…出すから」 「んァ、出…てる…れのく…あっ」  拗ねているような響きを孕んで小牧原の耳朶を食む。ひくひくっと小牧原の身体が引き攣って本多との結合部を食い締める。呼吸を忘れて小牧原の内部を汚すことに夢中になる。 「…ぁッ、あ…ああ…っ」  小牧原は本多が抜かれていく感覚に下肢を揺るがす。本多は息を整えながら小牧原の腹に横たわる小さな身を摩る。ぴくぴく腰が捩れ、本多の手から逃れようとした。 「逃げないで。感じて」 「待っ…ァ、あンっあ、ま、て、まだ、イッ…ぁや、ァァあっ!」  のたうつ身体に構わず小牧原のそこを扱く。 「感じてるカオ見せてよ。僕だけに…!」 「やぁ!あっ、あっあっ、!」  弾ける。白く吹き出して本多の着ているメイド服にも飛ぶ。呼吸のたびにへこんだり浮いたりする腹に飛んだ精を指で掬って舐める。濡れたその指先で小牧原の小さな唇をなぞる。舌が伸び、本多の指を舐めた。 「小牧原さん…!」 「はァ、礼信(れの)く…ん…」  細い身体を抱き締めてキスする。足らない。口内をまさぐって、舌を絡めて唾液を吸う。甘さに思考が溶けていく。人工毛髪が本多と小牧原の頬をくすぐり、はりつく。湿った音がして、吸い付く音も数度。小牧原の熱い息が溢れて、本多はそれすら逃すのが惜しくなる。 「んンっ、んふぅ、っ…ンンっ、ふ、」  小牧原がもがく。苦しいと。放したくなかった。力任せに抱き寄せていたが、その腕を解く。 「な、な…なんで…」 「気付かないんだもんなぁ、鈍すぎ。だから姉さんにも気付いてもらえない。いい人止まり」 「…っ、な、なな、なんで礼信くんは、ひひひど、ひどいこと、言う…言うんだ…」  肩で息をしながら潤んだ瞳が本多を睨む。だが本多からしたらただの上目遣いだ。泣きそうに歪んだ顔に本多は訝しげに睨む眉を寄せた。 「優しくしてほしいんですか?」  どうせは、弟だから。 「れ、れ、礼信(れの)く…、おお、おおれはどどどど、どうしてそそそ、そんなにき、きら、きらきらきら嫌われてしまっ、しまったんだ…?」 「……」  本多は唇を尖らせる。 「おっ、おれ、おれおれ、おれはっ、そそそ、それならっ、ももも、もうれれ、れのれの礼信(れの)くんの前に、」 「ちょっと」  小牧原の顔が大きく歪んで、それがいつも見せる焦燥や怯えとは違っていた。小牧原を乱暴に掴む。 「っひ、」 「滅多なこと言わないでくださいよ?」  放してほしいと身体を揺する小牧原の唇を奪う。柔らかい。甘い。蕩けそうになる。触れるだけだったつもりが堪らず柔らかな口内へ侵入する。 「あ…っぁ」  小牧原は嫌いな人とキスをするのだろうか。舌を絡めて。熟れた乳首を触らせるのか。身体に受け入れて、淫らに濡れるのか。小牧原は男だ。だが簡単にこの手に組み敷かれた。他の男にもされていない確証などどこにもなかった。この格好をしていれば…姉と同じ女を思わせる格好をしていれば誰でもいいのではと。姉と重ね合わせて、抱かれてしまうのではないかと。  小牧原との接吻を惜しむ唾液がぷつりと切れて、水の膜を張った虚ろな瞳が本多を見つめる。色付き光る唇へまた噛み付くように吸い付いた。小牧原の手が本多の衣装を掴む。 「っん、…れ、れの、れのく…ん」 「僕は嫌いな人とキスはしないしセックスもしたくない」  酸欠であまり本多の話は聞いていないようだったが間抜けな声を上げて首を傾げる。 「どっちかっていうと好きなんですよ。分かりません?これだけ構い倒しても?」  ぽす、っと軽く叩かれる。小ぶりなフリルだらけのエプロンが凹み、空気を含んでまた盛り上がる。平坦な胸にまたぽすりともう片方の手が軽くぶつかった。 「ひど、ひどひどいよ、礼信く…」 「あなたがカワイイからいけない」 「お、おれ、おれおれ、おれなんか、可愛くない…っ」  小牧原を抱き寄せる。抵抗もせず腕の中に収まった。 「姉さんが羨ましいや」 「れ、れのく、礼信くん、ごかっ、ごか…誤解してる…誤解!し、てる!」 「してないですよ。あなたは姉が好きじゃないですか。僕に女装までさせて」 「……っ、むか、むか、むかし、昔…約束、したした、したじゃ、ないか」 「え?」  小牧原が平坦な胸に顎を当てて本多を見上げる。胸で寝てしまった子猫のようだ。 「いも、いも、いも…」 「芋?芋ですか?」  ち、違う。吃りながら小牧原は続ける。 「妹ちゃん…妹ちゃんだよ、きみ、き、君たちの…」  姉ならばいる。妹はいない。いるはずだった。いるにはいた。だが育たなかった。小牧原は大きな目を忙しなく泳がせる。 「い、衣装…つく、つくつく、作ってあげるって、やくそ、約束した…」  妹が産まれるからと小牧原に言った。妹が産まれる、新しい家族が増えると喜び、なけなしの小遣いで人形を買ったのは覚えている。その服を作ってあげると、まだ本多に吃らずに話す小牧原が言っていた。小牧原は姉とよく一緒にいた。姉は本多の傍から離れなかったため、小牧原とも遊ぶ時間は長かった。のんびりとした姉に代わって、小牧原は兄のようだった。 「えっーっと、それ、結構前ですよね…?」  思い出したくない過去が引き摺り出されていく。小牧原が頷くのを胸の感触で分かった。 「きら、きらきら、嫌いなのは、れ、れのれの、れの、礼信くんのほ、ほうじゃ…」  思い出したくなかった。忘れていた。あまりにも小牧原が積極的に接してくるものだから。どちらかといえば、姉に。その前に本多が阻んでいた。 「…ごめんなさい。あれは本当に僕が悪かったです」  妹は産まれた。身体が弱かった。小さな命は長くはもたなかった。小牧原は首を振る。だが思い出して、忘れていたことにさえわずかな苦みが広がっていく。 「おれ、お、おおお、おれが…」  ぬいぐるみを抱き締めるように腕を回し直して、額を啄む。口紅が微かにつき、人工髪が小牧原の頬を叩いた。  妹が死んで間もなく、小牧原の家には新しい命が産まれた。妹だった。

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