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その1

最初の記憶は弟が生まれた日。 ぼくもいつかお父さんやお母さんのように大きくなると思ってた。でも、生まれた弟は初めからぼくより大きかった。 1度、縮むのかな? と考えたけどそんな事は無かった。 赤ちゃんは力の加減ができず、手足をばたつかせるので近づくと危険だと言われて眠っている時しか触らせてもらえなかった。 生まれたばかりの弟の膝から下くらいのぼく。大きいけどかわいい。ぼくの弟。 「とーた、くいしゅ、おっちい。みの、ちっちゃい。なんで?」 「なんでだろうな」 「かーた?」 「なんでかしらね」 父も母も理由を教えてくれなかった。 家族の中で、ぼくだけが小さい。 お出かけしてもぼくみたいに小さい子はどこにもいない。 自分がこの辺りでたった1人の小人だと気がついたのはいつだったろう。 弟のクリスピンがすくすくと育ち、力の加減が上手になって一緒に遊べるようになった頃だったかな? クリスと同じくらいの大きなちびっ子がぼくを珍しがって欲しがって駄々をこねた。 その子の親がクリスにぼくをどこで見つけたのか聞いたから。だから僕は自分がとても珍しいのだと分かった。 そしてこの時、ようやくドラゴンバードの巣で見つけて保護したのだと教えてもらえた。ドラゴンバードは気に入った物を巣に溜め込む習性があるため、失せ物探しの依頼を受けたら最初に探すらしい。 ちなみにその時の探し物は特注のブローチで、その巣の中で見つかったそうだ。 「ミノル、クリスはもうすぐ学校へ行くんだが、ミノルはどうする? 家で母さんと過ごすか、クリスと一緒に学校へ行くか。好きな方を選べ」 「ガッコ、ってなぁに?」 「お友達を作って一緒に勉強して、将来の仕事を決める準備をするんだよ」 「おしごと?」 「あー、ミノルは人と違うからみんなと同じ仕事は選べないかも知れないけど、勉強はしておいた方が良いぞ」 「おれ、兄ちゃんと一緒に行きたい! 無理かと思ってたけど、行けるの!? 兄ちゃん、行こう?」 「うーん……よく分からないけど、おかーさんはあんまり遊べないから、クリスと一緒にガッコ行く!」 「やったー!!」 本当は10歳から行くものだけど、1人じゃ行かせられないとクリスピンの入学まで待ってたんだって。 気持ちが決まったら役所や学校にお願いしに行く。 移動は基本、クリスに運んでもらう事になるって事を分かってもらわなくては。 役所の人達も学校の先生方も、ぼくの姿に驚いてたけど、ぼくたちのお願いを聞いてくれた。 入学式はおとーさんもおかーさんも来て、クリスの胸ポケットでキリッと頑張った。……おとーさん達、後ろの席だからぼくの事、見えないって後で気がついた。 「はい、じゃぁそっちの席から順に自己紹介しなさい」 「クリスー、じこしょうかいってなぁに?」 「聞いてれば分かるよ」 クスクス笑われた。みんな知ってるのか。 「1番、アレクです。よろしくお願いします」 「2番……」 なるほど。 番号と名前を言ってよろしくお願いすれば良いのか。次はぼくの番だ! 「11番! ミノルです! よろしくお願いします!」 「12番、クリスピンです。ミノルの弟です。よろしくお願いします。」 ざわざわざわざわ…… 「ミノルを見づらい席もあるから、前に出てきてくれるか?」 「はぁい!」 先生に言われてクリスが前に出て、ポケットに入っているぼくを取り出して肩に乗せた。 「11番のミノルです! 小さいけどクリスのお兄ちゃんです!」 「ちっちゃ!」 「小人!? 「なにそれ!?」 「はーい、静かに。ミノルは小さいけどちゃんとした生徒だから仲良くするように。クリスピンが付いてるから大丈夫だと思うが、何かあったら手伝ってやってくれ」 「「「「はーい!」」」」 休み時間にたくさん話しかけられてびっくりしたけど、クリスにくっついてたから怖くはなかった。 「学校はどうだった?」 「おもしろかった!!」 「みんなで兄ちゃんおもちゃにしようとするんだよ? オレ、腹立った」 「そうだっけ?」 胸ポケットから肩によじ登り、機嫌の悪いクリスを宥めるべくほっぺにぷちゅっとキスをした。クリスの機嫌はだいたいこれで直る。 「……もう! 兄ちゃんはかわいいんだから、気をつけてよ?」 「うん! できるだけクリスから離れない! どうしてもの時は先生を頼る!」 「よくできました」 褒められて、頭をくりくり撫でられた。 なんだかぼくが弟みたいだけど、自分でできないことが多いから仕方がない。2人でお風呂に入ってからみんなでご飯を食べた。 次の日。 お母さんに教えてもらったから字は読めるけど、鉛筆が大きくて持てないから書けない。でも書き取りの授業があるので、ただ見ているだけでは退屈だ。 「あ……」 クリスの鉛筆の芯がぽきんと折れた。 何の気なしにそれを持ってみたらちょうどいい大きさで、字を書いてみた。 体全体を使って大きく「ミノル」と書いてみた。書けた! よし、次はクリスだ。ちゃんと「クリスピン」て書いたよ。 「お父さん」と「お母さん」も書いた。 そうだ、黒板の字を書くんだった。 思い出して書き始めたけど、ほんの少し書いたら休み時間の鐘が鳴った。 「兄ちゃん、字、書けるじゃん!」 「うん! これなら書けたよ」 「どれどれ? うん、ここだけ間違えてるがよく書けてるな」 先生が間違えてるところを直して、全体に花丸をくれた。 「兄ちゃん、手を洗ってお昼ご飯食べよう?」 「手?」 「真っ黒だよ」 「わっ、ほんとだ!」 ノートに手を押し付けたら手形がついた。 「そんなんじゃきれいにならないよ。ちゃんと手を洗って」 「はーい」 なぜかクラスメイト達に囲まれて手を洗う。腰辺りまでを持ってもらって細く流れる水流に近づけてもらって洗います。 ぴっぴっと手を振って雫を飛ばし、クリスが差し出すハンカチで手を拭いた。 お昼はお母さんが作ってくれたお弁当。 ぼくのはパンにウインナーの薄切りとベビーリーフとトマトペーストを挟んだサンドイッチ。小さいから作るのが大変なのに、お母さんは張り切って作ってくれた。めちゃくちゃ美味しい! デザートは苺! 苺は大きいから1粒の8分の1。ブルーベリーなら1粒丸々食べられるよ! ……それだけでお腹いっぱいになっちゃうけど。 美味しかった。 午後の授業は眠気との激しい闘いをしていた。苦しい闘いだったけど、ぼくは大きくなって巨大アリを倒し、ぼくの手のひらで小さくなって震えてるクリスをなでなでしてあげた。 でも気がついたら、また小さくなってたのでがっかり。 「今日ね、ガッコでね、大きくなったの! クリスがぼくの手に乗って大きなアリ怖いって震えてたからやっつけてなでなでしてあげたんだよー!」 「頑張ったのね」 「ね、クリスもう怖くない?」 「……午後の授業」 「うん!」 「寝ても良いけど、寝言はやめて」 「寝てない! 闘ってた!」 「学校は勉強する所だから、闘わないでね」 「……そっか。気をつける!」 でも大きなアリが来たらぼくが頑張らないと! 次の日、ヒメカマキリにいじめられた。ぼくだって大きくなれば強いんだ! 覚えてろよー!!

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