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第一話

「ほら、(うた)、隠れてないで・・・ごめんなさい。恥ずかしがりやで・・・」 「大丈夫です。初めまして詩」 母に、会わせたい人がいるから。 そう言われ、近所のコンビニの駐車場に連れていかれた。 そこで待っていたのは、すらっとした長身の若い男性。 どこか寂しげな眼差しが印象的な、男らしい精悍な顔立ちをしていた。 「詩、挨拶ぐらいしなさい」 母に怒られ、おそるおそる顔を出すと、手をぐいっと引っ張れ、ふわりと体が宙に浮いた。 「咲良・・・やっと会えた!!」 ガバッと、力強く抱き締められた。 あまりの突然の事に、目をパチクリしていると、母がとんでもない事を言い出した。 「関さん、本当に息子を買って貰えるんですよね?」 「勿論。咲良とこうして再会出来たんです。さぁ、うちに帰ろうか」 「ちょっと待って、母さん!!何、言ってるの!?この人誰!?それに、僕、咲良って人じゃないよ。古沢詩だよ」 「あの人の連れ子であるあなたを、ここまで育ててあげたんだから、感謝しなさい。借金作って、女と失踪して、残されたこっちの身にもなって欲しいわ」 「そんな・・・」 普段優しい母。 でも、この時の母の表情は、まるで別人の様だった。 「嘘でしょ!?僕、母さんの子だよね?」 「違うって言ってるでしょう!」 手足を必死で、バタつかせるも、当時まだ10歳。 どんなに抵抗しても無駄だった。 「さっさと帰るぞ」 コンビニから母の交際相手が、缶ビール片手に出てきた。 たちまち母の表情が変わった。駆け寄って行くと、自ら手を腕に絡ませ、媚びを売る仕草を見せた。 一番嫌いな、一番見たくない母の姿。 思わず顔を逸らすと、 「咲良、俺たちも帰ろうか」 男性がそう口にして、すぐ後ろに停車していた車の後部座席に押し込まれた。 「大人しくしていれば何もしない、いいな?」 怖い顔で脅され、抗う事を諦めた。 「車を出せ」 僕の隣に彼が乗り込むと、ゆっくりと走り出した。 母の姿を何度も振り返って見たけど、一度も目を合わせてはくれなかった。 今にも泣き出しそうな曇天の空を見上げるうち、涙がぽろぽろと溢れてきた。 あれから、5年・・・。 今、僕は、関咲良として、青年実業家・関瑞樹の弟して生活している。 「ただいま、咲良」 いつもの様に台所に立ち、夕飯の準備をしていると、瑞樹さんが背中にピタリと体を寄せてきた。 「学校楽しかったか?」 頷くと、そろりと服の上から体を撫でられた。

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