1 / 7
第一話
「ほら、詩 、隠れてないで・・・ごめんなさい。恥ずかしがりやで・・・」
「大丈夫です。初めまして詩」
母に、会わせたい人がいるから。
そう言われ、近所のコンビニの駐車場に連れていかれた。
そこで待っていたのは、すらっとした長身の若い男性。
どこか寂しげな眼差しが印象的な、男らしい精悍な顔立ちをしていた。
「詩、挨拶ぐらいしなさい」
母に怒られ、おそるおそる顔を出すと、手をぐいっと引っ張れ、ふわりと体が宙に浮いた。
「咲良・・・やっと会えた!!」
ガバッと、力強く抱き締められた。
あまりの突然の事に、目をパチクリしていると、母がとんでもない事を言い出した。
「関さん、本当に息子を買って貰えるんですよね?」
「勿論。咲良とこうして再会出来たんです。さぁ、うちに帰ろうか」
「ちょっと待って、母さん!!何、言ってるの!?この人誰!?それに、僕、咲良って人じゃないよ。古沢詩だよ」
「あの人の連れ子であるあなたを、ここまで育ててあげたんだから、感謝しなさい。借金作って、女と失踪して、残されたこっちの身にもなって欲しいわ」
「そんな・・・」
普段優しい母。
でも、この時の母の表情は、まるで別人の様だった。
「嘘でしょ!?僕、母さんの子だよね?」
「違うって言ってるでしょう!」
手足を必死で、バタつかせるも、当時まだ10歳。
どんなに抵抗しても無駄だった。
「さっさと帰るぞ」
コンビニから母の交際相手が、缶ビール片手に出てきた。
たちまち母の表情が変わった。駆け寄って行くと、自ら手を腕に絡ませ、媚びを売る仕草を見せた。
一番嫌いな、一番見たくない母の姿。
思わず顔を逸らすと、
「咲良、俺たちも帰ろうか」
男性がそう口にして、すぐ後ろに停車していた車の後部座席に押し込まれた。
「大人しくしていれば何もしない、いいな?」
怖い顔で脅され、抗う事を諦めた。
「車を出せ」
僕の隣に彼が乗り込むと、ゆっくりと走り出した。
母の姿を何度も振り返って見たけど、一度も目を合わせてはくれなかった。
今にも泣き出しそうな曇天の空を見上げるうち、涙がぽろぽろと溢れてきた。
あれから、5年・・・。
今、僕は、関咲良として、青年実業家・関瑞樹の弟して生活している。
「ただいま、咲良」
いつもの様に台所に立ち、夕飯の準備をしていると、瑞樹さんが背中にピタリと体を寄せてきた。
「学校楽しかったか?」
頷くと、そろりと服の上から体を撫でられた。
ともだちにシェアしよう!