31 / 253

優しい手のぬくもり。(4)

「あの、本当に何もないです」  本人が何も無いと言っているのに、なかなか信じてくれない。さっき、駆け下りた階段をゆっくり上っていく。 (言わなきゃ、いけないのかな。僕が特異体質だっていうことを……)  言いたくないけれど本当のこと。 「あの、僕……」  口をひらいた僕は、すでにベッドの上に下ろされていた。  僕はもちろん、男の人の顔を見ることができず、モコモコのカーペットが敷いている床を見つめる。  声が震えてしまうのは、初対面の人にも、僕が醜いと肯定されるのが怖いから。 「本当にどこも痛くないです。怪我もしていないです……だから……」  語尾が少しずつ声がしぼんでいく。すると男の人の顔が近づいてくる気配がした。  僕は父親を殺した。醜い存在だ。 (見ないで――)  僕を、そんな綺麗な目で見つめてこないでほしい。  僕はそこらへんにいる幽霊よりもずっと性質が悪い化け物だから……。 「汚いから見ないで……」  言ったとたん、目から頬に向かって流れる涙。その涙はやがて、僕の(あご)を伝い、膝の上で強く握りしめている拳に当たった。 「僕は、人殺しだから……」  特異体質の、僕の体調が軽くなったのは父のおかげだった。父が僕の身代わりになって、帰らぬ人となってしまった。 (僕が、父さんを殺したんだ……)  そう思うと、涙は次から次へと頬を伝い、流れ落ちていく……。 「……っく、っひっく…………」  あれほど我慢していた嗚咽はぎゅっと閉ざした唇から漏れる。その時だ。不意に僕の身体があたたかな体温に包まれた。

ともだちにシェアしよう!