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優しい手のぬくもり。(4)
「あの、本当に何もないです」
本人が何も無いと言っているのに、なかなか信じてくれない。さっき、駆け下りた階段をゆっくり上っていく。
(言わなきゃ、いけないのかな。僕が特異体質だっていうことを……)
言いたくないけれど本当のこと。
「あの、僕……」
口をひらいた僕は、すでにベッドの上に下ろされていた。
僕はもちろん、男の人の顔を見ることができず、モコモコのカーペットが敷いている床を見つめる。
声が震えてしまうのは、初対面の人にも、僕が醜いと肯定されるのが怖いから。
「本当にどこも痛くないです。怪我もしていないです……だから……」
語尾が少しずつ声がしぼんでいく。すると男の人の顔が近づいてくる気配がした。
僕は父親を殺した。醜い存在だ。
(見ないで――)
僕を、そんな綺麗な目で見つめてこないでほしい。
僕はそこらへんにいる幽霊よりもずっと性質が悪い化け物だから……。
「汚いから見ないで……」
言ったとたん、目から頬に向かって流れる涙。その涙はやがて、僕の顎 を伝い、膝の上で強く握りしめている拳に当たった。
「僕は、人殺しだから……」
特異体質の、僕の体調が軽くなったのは父のおかげだった。父が僕の身代わりになって、帰らぬ人となってしまった。
(僕が、父さんを殺したんだ……)
そう思うと、涙は次から次へと頬を伝い、流れ落ちていく……。
「……っく、っひっく…………」
あれほど我慢していた嗚咽はぎゅっと閉ざした唇から漏れる。その時だ。不意に僕の身体があたたかな体温に包まれた。
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