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優しいひと。(1)
「はい、できた」
「あ……りがとうございます……」
お礼はとても小さな声だった。
あのあと、僕の身体は紅 さんに全身を洗われちゃった。
頭がぼーっとする。
お風呂場での記憶がほとんどない。
今もやっぱり力が入らなくって、茶色い着物を着た紅さんの膝の上で、寄りかかるようにして座っている。
はあ、紅さんは何を着ても似合うけれど、着物だと大人の色っぽさがでる。
お風呂に入りたてだからかな。
まつ毛の先が少し濡れていて、そのまつ毛に包まれた赤茶色の目が、脱衣所にある、白熱灯の電球に照らされて、輝いている。
唇も少し濡れているし、さっきよりも赤い。
……すごく綺麗。
そんな僕の格好は、父が亡くなった時に着ていた喪服はなくて、真っ白な膝上の着物に黄色の帯。
この着物は、紅さんの、2人いる弟さんのうち、一番下の弟さんのものらしい。僕と身長があまり変わらなくて良かったと、紅さんは微笑む。
紅さんの弟さんってどんな人なんだろう。きっと、紅さんに似て、とても綺麗な人なんだろうな。それで……やっぱりさっき僕にしたようなことをして、可愛がっているんだろうな。
そう思った瞬間、僕の胸がチクリと痛んだ。
どうしてかな。紅さんに優しくされるのは僕だけじゃないって思うと悲しくなってしまう。
「比良 くん?」
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