あ……。 　僕、いったい何を考えていたんだろう。 　紅さんが優しいのは僕だけじゃないなんて悲しむ権利は僕にはないのに……。 　馬鹿げた独占欲に、自分でもびっくりしてしまう。 　紅さんはそんなおかしな僕に首を傾げて見つめてくる。 　僕なんかが、独占欲なんて持っちゃいけない。 　僕がこんなことを思うこと自体、許されないことだ。 　僕は醜い存在だから……。 　それでも紅さんを望んでしまうのはきっと、父以外ではじめて優しくされたからだろう。 「なん……でもないです。弟さんは、紅さんに似て綺麗な人なのかなって想像していました」 　汚い僕には不似合いなほどのまっ白い汚れていない着物。裾をぎゅっと握って、何もないんだと、ひとつ微笑んだ。 「綺麗？　わたしはそんなにいいものではないよ？　それに、弟は……綺麗というよりも、可愛い感じかな？」 　可愛い弟さん……。 　いったいどんな子だろう。 　僕がまた弟さんについて考えていると、紅さんの手が裾を握りしめていた手をそっと包み込んだ。 「わたしは、君の方が美しいと思う」 「へ？」 　何を言われたのかわからなくって、呆然と紅さんを見つめる。 　そうしたら、紅さんに包まれた僕の手は持ち上げられ……。 　チュッ。 　聞こえたのはリップ音。 　それから僕の手の甲に柔らかい何かが触れた。 「――っく、くれないさんっ！？」 　その、『何か』の正体を知るのに少し時間がかかったのは、僕があまりにも驚いてしまったから――。