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優しいひと。(3)

 だって、紅さん。手の甲にキスしたんだ!!  僕は慌てて紅さんの手から自分の手を引き離す。  心臓がこの上なくバクバク(うるさ)いのは、紅さんが綺麗だからっていうのと、今までこういう経験が無かったから……。 「比良は、美しい上に、奥ゆかしいんだね」  にっこりと微笑むところを見ると、どうやら紅さんにとって手の甲のキスは当たり前なんだろう。  ああ、外人さんが頬とかにキスするのと同じような感じなのかな。  そうだよね。だってそうじゃなきゃおかしいもん。  だいたい僕も僕だ。  同性なのに、こういう態度はおかしい。  ――でも、無理。  僕の心臓は、ドクドク煩い。  紅さんにキスされた手の甲が熱い。  そこから伝染して、身体が熱を持つ。 『どうしよう』ばかりが僕を襲う。  しばらくの間、身体が硬直していると――……。  ふんわりと、また僕の身体が浮いた。 「ひゃぁ」  これで何度目になるだろう。女の子みたいな声が出てしまう。  もうイヤ。  こんな挙動不審な自分はイヤ。  しかもお姫様抱っこなんて恥ずかしい。  それなのに、紅さんは僕を横抱きにしたまま、洗面所から移動する……。  どこに行こうとしているのかなんて、そんな疑問さえも浮かばない。  頭が追い着かない。  何も、考えられない。 「君は軽すぎる。ご飯は……これからわたしの傍にいるんだ。たくさん食べられるようになるから問題はないね」

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