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いつもとは違う日常。(1)

「ん…………」  真っ白い光の中、あたたかい体温を感じる。閉じた目をゆっくりと開けていくと、目の前には……。 「おはよう、比良(ひら)」  長いまつ毛に覆われた、綺麗な赤茶色い目が寝起きでまだ焦点がハッキリしない僕の顔を写していた。  (くれない)さんの家でお世話になってから、いったいどれくらいの時間が過ぎたんだろう。  ボーっとしている頭で少し考えていると、紅さんが僕の額に唇を落としてくる。  チュッ。  リップ音と一緒に覚醒する僕の頭……。 「っ!! くれないさっ!!」  驚いて両目を見ひらくと、目の前にいる彼は、微笑んでいた。  額とか、唇とか、いつもこうやってキスするのは、たぶん紅さんにとって挨拶みたいなもの。舌を絡めるキスだって、きっと特別な意味なんてない……。  ただ、僕が自暴自棄に陥っているから、ああやって何も考えられないようにしてくれるんだ。  ……これ以上、おかしな霊体に付きまとわれないように……。  紅さんが言うには、霊体は僕の感情で左右されるらしい。僕が悲しんだり苦しんだりすると、彼らは寄ってくるんだって。だから霊体は、いつだって僕を責めるらしい。  紅さんは、ただ僕を助けたい一心でこうやって色々尽くしてくれる。目の前で困っている人を見過ごすことなんてできない、とても優しい人なんだ。 「比良は今日も美しいね」  育ての父を殺したも同然の僕は汚い。なのに、紅さんは、1日に一度は必ずと言っていいほど、僕を褒める。

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