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薔薇の香りに導かれ……。(1)
何も見ないように……。
何も感じないように……。
何も、思わないように……。
目をつむり続ける僕の背中に柔らかい布が当たった。
どんなに何も感じないようにと思っても、やっぱり自分がいる場所が気になって、うっすらと目を開ける……。
そうしたら――……。
「んぅんぅ……っ!!」
僕の口が、柔らかくて大きい、『何か』に塞がれた。
苦しい。
息が、できない……。
被さっている、『何か』から逃れようと手を伸ばす。
触れてみると、固いけれど……でも、コンクリートみたいなカチカチな物じゃなくって、あたたかな、『何か』だっていうことがわかった。
そこで僕に覆い被さっているのは布じゃなくって、誰かだっていうことに気がついた。
目をこじ開けて真ん前にいる人物を見つめると、僕を見下ろしている視線と重なった。
あまりにも綺麗で息もできず、拒絶するために触れていた手は僕の意思とは反対に動く。
その人を引き寄せるように掴んでしまう。
それを同意と受け取ったのかもしれない。僕の口内に、湿った舌が入り込んできた。
「っん、ぅうぅ……」
逃げる僕の舌を追いかけるようにして、舌がなぞってくる。
僕の舌とその人の舌が掠 めると、背筋が震えた。
「ぁ……ふぅ……」
僕が彼から逃げるたびに、絡め取られ、形状をたしかめられるようになぞられる。
「ん、っふ、ふあ……」
喘ぎっぱなしで閉じることができない口から流れる唾液は僕によるものなのか、それともその人のものかもわからない。
口内から生まれる、絶えず聞こえる水音……。
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