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薔薇の香りに導かれ……。(19)
紅さんは僕の中を掻き乱すのを止めて、涙を流す僕の顔を覗き込んだ。
優しい紅さん。
抱きたくもないこんな気持ち悪い僕をこうやって愛してくれようとしている。
「みな、いで……」
(ぼくは醜いから……)
綺麗な紅さんの目を汚しちゃいけない。
僕は紅さんの目を汚さないようにとシーツの中に顔を埋めた。 ……ごめんなさい。
汚くてごめんなさい。
「ごめ、なさい。ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。ごめんなさい、ごめ……」
「比良!!」
「……っつ!!」
泣いて泣いて……。
泣きじゃくりながら謝り続けているとーー。
僕の体位がまた変わった。
視界はまた天井へと戻る。
僕の涙で滲んだ視界に写るのは眉根を寄せている紅さんの顔――。
「……っつ」
今の僕の顔はきっといつも以上に汚い。
涙は頬を伝って四方八方に広がっているだろうし、鼻水だって垂れ流し状態だ。たぶん今の僕はこれまで紅さんが見た中で最も醜い顔をしている。
こんな汚い僕を紅さんは抱かない。
……じくじく。
ずきずき……。
胸が痛い。苦しい。
息ができないくらい、悲しい。
「比良。いったいどうしたの? 何が気持ち悪かった?」
……ちがう。
紅さんは気持ち悪くない。
気持ち悪いのはこの僕だ。
鼻水も涙もべとべとになってる僕に向かって紅さんは真摯に話しかけてくれる。
……紅さんが可愛そう。
僕なんかが紅さんの伴侶になっちゃって……。
僕はこんなに汚いのに……。
「ごめんなさぃ……」
綺麗な紅さんの伴侶が、こんな汚い僕でごめんなさい。
ーーごめんなさい。
「ごめんなさい」
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