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薔薇の香りに導かれ……。(20)
「比良? なぜ謝る必要がある? 比良、教えて。何がイヤだった? 何が気持ち悪かった?」
イヤじゃない。紅さんを拒むわけがない。いつだって紅さんから与えてくれるものはきらきらした宝石ばかりだ。とても眩しくて、目が眩むほどの輝いた宝石。
だけど――。
だけど僕は違う。
僕が紅さんに渡せるのは、道端に転がっているただの小石なんだ……。
「っひ、っひ……」
僕は紅さんに何もあげられない。
ゴミしか、あげられないんだ。
いらない。
ゴミなんていらない。
「比良……お願い。教えてほしい」
どこまで紅さんは優しいんだろう。
こんなに汚いのに、こんな僕でもこうやって同じ目線で話しかけてくれる。
「抱いて欲しかった」
僕はとうとう紅さんに根負けした。
しゃくりをあげながら、ゆっくりと話していく。
「指じゃなくて……紅さんに抱かれたかった……ふたり一緒に溶け合いたいって……ごめんなさい……」
僕には紅さんの伴侶になる資格なんてない。
帰ろう。
父さんがいなくなった屋敷に戻ろう。
綺麗な紅さんの傍は相応しくない。霊体たちに身体を蝕まれるのが僕に相応しい生き方だ。
「比良……君は……」
「ごめんなさいっ!」
こんな欲張りで醜い奴は誰も必要とはしない。
「……っひ、っひ」
悲しすぎて閉じた目からはまた大粒の涙が流れた。
目をつむると、深いため息が聞こえた。
――呆れられたんだ。
「君はなんて可愛らしい……そうやって、いちいちわたしの眠っていた母性を引き出すのか……」
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