「くれないさん？」 　なに？ 　言っている意味がわかんない。 　目を開けると、そこには眉根を寄せて苦笑いをしている紅さんの姿があった。 「わたしがすぐに比良を抱かないのはね、初めてがとても痛いからだよ。君には無理をさせたくないんだ。愛おしい君」 　まるで僕の頭に直接話しかけるように、紅さんの唇から告げられた言葉と吐息は耳孔へとゆっくり入ってくる。 「……んっ」 　くすぐったい。 　肩を窄(すぼ)めてしまう。 「愛しているよ、比良」 　どんなに泣いても、どんなに醜い姿を見せても、紅さんはそうやって僕を受け入れてくれる。 　……本当、なのかな。 　紅さんは僕の身体を気遣ってくれている？ 　すぐに抱かないのはそういうこと？ 　だったら……。 「……平気。紅さんなら痛くてもいい。お願い、抱いてください……」 「比良……」 　じんわり溢れてくる涙。 　だけどこの涙は苦しいものじゃない。優しい涙だ。 　僕を悲しませることも喜ばせるのも、紅さんだけ――。 　僕にとって紅さんは唯一の存在なんだ。 「大分慣らしたが……まだ痛いかもしれない。我慢できなくなったら言ってね」 　痛いなんて言わない。 　だから……だから……。 「僕を抱いてください……」 「っ、比良！！」 　言った直後――。 　僕は力強い紅さんの腕に掻き抱かれた。 「比良……愛しているよ」 「僕も……」 　ちゅっ。 　ひとつ唇を落とされて、身体が離れる。 　仰向けのまま、ふわりと浮かされた僕の腰は、紅さんの腕でしっかり固定された。