253 / 253
妖狐の本質。(9)
「ダメですよ! 僕なんかがお店に行ったら、紅さんの邪魔になっちゃう!!」
朱さんや暁さんはバーのお手伝いをしていたし、ふたりがお店に行ってもお客さんは喜ぶと思う。
だってふたりとも、ものすごくカッコいいもん。
だけど……だけど僕は何もできない。
冴えない、こんな見窄 らしい奴が紅さんの傍でチョコチョコ動き回るのは、迷惑にしかならない。
――結局、紅さんと僕とでは住む世界が違うんだ。
「ば~か」
ペチッ。
「ひゃっ」
悲しい考えになってうなだれると、朱さんの手が僕の方へと伸びてきて……。
ぺしゃりと額を叩かれてしまった。
手加減はしてくれてるんだろうけれど、朱さん、少し痛いです……。
「あのな、自分が想っている人がわざわざ店に来てくれるんだぜ? そんな嬉しいことってないと思うぞ?」
ヒリヒリする額を擦りながら顔を上げて朱さんを見ると、朱さんは両手を腰に当てて、そう言った。
「そう……かな……」
そんなものなのかな……。
朱さんは大きく頷いた。
「そうそう。絶対そうだって!!」
「……そう、だな……行くか……」
パフンッ。
今度は暁さんの大きな手が僕の頭に乗った。
なんだかふたりとも、本当のお兄さんみたいだ……。
ふたりの気遣いとこれから紅さんに会えるっていうことがとても嬉しくて、ついつい口元が緩んでしまう。
「やっと笑った。やっぱ比良はさ、そっちの顔の方が綺麗だよな。んじゃ、そういうことで、早速着替えようぜ!!」
朱さんは鼻歌を歌いながら僕の背中を押して急かした。
ともだちにシェアしよう!