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妖狐の本質。(8)

 シン……。  あたたかなリビングに、静寂が広がった。  僕の所為で居たたまれない空気が流れはじめた――その時だった。 「そうだ!! な、な、アカ兄!!」 「う~ん」と、朱さんの唸る声が響いたと思ったら、明るい声がリビング中に響いた。 「なんだ?」  沈黙を守っていた暁さんはアイスティーが入ったグラスを、まるでお酒でも飲むように傾けてカラリとブロックアイスを鳴らす。朱さんに向き直った。  暁さんが濡れた黒髪をかき上げる。  とても色香があって、心臓がドキリと跳ねる。  外見の印象は違うけれど、やっぱり似ている。  紅さんのお兄さんなんだなぁ……。 「クレ兄のとこに行こうぜ」  暁さんに見惚(みと)れている僕をよそに、朱さんは提案した。  朱さん?  紅さんのお仕事場に行くって言った?  自分の耳を疑って、提案する朱さんと、決定権を出す暁さんを交互に見る。 「だってさ、今のままだと比良、『寂しすぎて死んじゃう!』って感じだもん」  ……うっ。  そんなに僕の思っていることが分かっちゃうんだ。  そりゃ、紅さんがいなくなってから(うつむ)く回数も多くなったと自分でもそう思うけれど……。 「な、な、どう?」  だけど気のせいなのかな?  胸の前で拳をつくって話す朱さんがとても楽しそうに見えるのは……。  暁さんは、「う~ん」と、唸っている。  暁さんも迷っているみたい。

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