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第1話.1人になる、ということ
「やっと……1人………」
寮長との話も終わって寮の自分の部屋に入り、椅子に座ると本島静 はボソッと呟いた。
3日前まで一緒にいた静の伯父である大野明 がいないということは、自分の身は自分で守らなくてはならない。そういうことなんだと今更ながら静は思っていた。
聖凛高等学校に入学が決まり、そこが全寮制であることを知った明は猛烈に反対をしてきた。
「全寮制なんて聞いてないぞ!」
そう言われるだろうと思っていたから、静は全ての手続きが終わるまで言わなかったのだ。
「言ってない…から…」
そう返す静に明は頭を抱える。
「集団で生活をするってことが、どういう事か分かってるのか? 俺は側に居られないんだぞ」
今まで何度となく欲望に駆られた輩に襲われそうになっている、可愛い甥っ子を明はチラッと見る。
「大丈夫。護身術」
確かに四六時中一緒に居られるわけではないので、明は静に護身術を習わせていた。
今では自分のことも投げ飛ばせるほど強くなっている。
でも、だからといってこの家から出て行って欲しくなかった。
「いつ寮に入るんだ? 挨拶がてら一緒に行く」
「1人で…行く…」
おそらく色々と1人で考えて、高校を決めたのだろう。
静からは決意を感じる。
「静のこと、色々と説明しないとだろ? 他人と風呂に入ったり出来るか?」
「無理」
即答する静に明は苦笑する。
「で、いつ寮に入るんだ?」
「3月27日」
システム手帳を見ていた明がため息をつく。
「出張から帰る日じゃないか。今回は海外だし、日程は変えられない」
「1人…平気……」
「帰ったら挨拶に行くから」
ポンと頭に手を置かれ明に微笑まれた静は、今度はコクンと頷いた。
荷造りなどは殆どが明が取り仕切って、あとは寮に行けばいいとなった3月24日、明は出張に行ってしまった。
「帰ったらその足でそっちに行くから。身の回りのもの忘れずに持って行くんだぞ、それから……」
「大丈夫……明さん、行って」
いつまでも話が終わりそうに無いから、静は明の言葉を遮るように声を発した。
明がいなくなった部屋は静にはいつもより広く感じられた。感情が顔に表れることはないが、人並みに寂しさを感じていた。
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