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第2話.予期せぬ事態

少し前のことを思い出していた静はドアをノックする音で我に返った。 『明さんが来たのかも』 そう思った静はいつもの危機管理能力が成りを潜め、ドアを開けてしまった。 「よかったいて。寮長さんからは部屋にいるって聞いてたけど」 「誰……?」 自分と同じくらいの背丈で大きな荷物を持った、笑顔全開の男の子が立っていた。 「ごめん、自己紹介だね。僕は河上誠(かわかみ まこと)。ルームメイトになるのでよろしく」 静は耳を疑った。 ここ聖凛(せいりん)高等学校には創立以来、入試で全教科満点を取ると、入学金や寮の資金を全額免除。そして寮は1人部屋を与える、という話だった。 静は聖凛高等学校創立以来、初の全教科満点を取った人物である。 先程の寮長の話でも1人部屋ということだったのだ。 静は何も言わずにドアを閉めようとしたが、誠は慌てて荷物をそこに挟んだ。 「聞こえなかった? ここ、僕の部屋でもあるんだけど。入れてくれる?」 ニコニコと笑顔を絶やさない誠を静はため息混じりに見つめる。 「何かの……間違い……ここ……1人………」 心の中ではスラスラと出でくる言葉も、口から出そうとすると途切れ途切れになってしまう。 これでも静にとっては頑張った方だった。 「え? ごめん、よく聞こえなかった」 頑張って絞り出した声が届かない。 これも静にとってはいつものこと。だからまた、声を出すことを諦めてしまう。 「河上くん!」 後ろから急に声をかけられてビクッとすると誠は振り返った。 「……寮長さん。あの……」 声をかけてきたのは寮長である安藤貴也(あんどう たかや)だった。 誠は安藤と静を交互に見やった。 「ごめん、本島くんにはまだ伝えてなかったから。本島くん、寮に入る人数に間違いがあってね。入れるのはもう君の部屋だけなんだ。規約とは異なることになっちゃうけど、お願いできないかな」 何と無く嫌な予感はしていた。 静はコロコロと表情を変える誠と一緒の部屋を使うことはいいとして、仲良くは出来ないだろうと思っていた。 「分かり…ました……」 自分に注目が集まることに耐え切れず、静は了承する。 「ありがとね。本島くん。河上くんと仲良くしてね」 テンプレートのような安藤の言葉に静は一応頷いた。 「貴也。保護者の方が来たよ」 安藤の後ろから副寮長である星野が顔を出した。 自分より大きな人が苦手な静は心臓をバクバクさせていたが、表情が変わらない為そこにいる誰も気付くことはなかった。

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