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第4話.過去①
「まず、俺から挨拶をさせて貰うな。俺はこの寮の担当の地迫鈴成といいます。今年は1年の担任になる予定だ」
鈴成はそこで一度言葉を区切ると、静と誠を見た。
誠は人懐こい笑顔で会釈をしたが、静は全く興味が無いのか、無表情で視線を外した。
「で、今回ここに集まったのは、本島くんのことですね」
今度は安藤が明に話しかける。
「あぁ、静には色々とあってな。集団生活をさせることが心配でならない」
明が静の事を説明しに来ることは、出張に行く前から分かっていたことだ。
それでもどこまで自分の事を話すのかまでは、静も把握出来ていなかった。
明が昔の話を始めると、静の脳裏にはその時の映像が事細かに映し出されていった。
『ちょっと、静。手伝って』
重たそうに荷物を運ぼうとしている明美 は自分の息子に助けを求めた。
『ほとんど母さんの荷物じゃないか。少し減らせばいいだろ?』
たった3泊4日の旅行にそんな沢山の荷物はいらない、と静は思っていた。
自分の荷物なんて、今背負っている小さなバッグ1つである。
『僕がもつよ。明美も静も車に乗って。出発だ』
思っていたよりも重かったのか、少し重たそうに明美の荷物を持つと、実 はトランクにその荷物を入れ、運転席に座った。
助手席に明美、後部座席に静が座るのもいつもの光景だった。
お盆の時期を外して休みを取っていたためか、車は渋滞に巻き込まれることもなく、順調に進んでいた。
『次のサービスエリアでトイレ休憩にしよう』
そんな実の声が聞こえたと思ったら、耳をつんざくような音と共に、静の目の前は真っ赤に染まった。
何が起こったのか分からなかった。
分かるのは背中の痛みと、生暖かい液体が全身に滴っていることだけだった。
その後の記憶はあまり無かったのだが、そこから自力で外に出て倒れたらしい。
トラックとの正面衝突の事故。
明美と実は即死。
静が発見された時血まみれでかなり驚かれた様だが、その血はほとんど明美と実のものだった。
救急車で運ばれた静が目を覚ました時、側に付いていたのは明だった。
「もしかしたら、目を覚ますことは無いかもしれないって先生に言われてたから、目を覚ました時は本当に嬉しかった」
明は静の頭にポンと手を置いた。
「明さん………」
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