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第5話.過去②

少し前までは、昔のことを思い出すと震えが止まらなくなるようなこともあった静だが、今では明の無償の愛を感じられる様になり、少しの事では動じなくなっていた。 「その事故の後遺症で、しばらくは車椅子の生活をしていた。それに、今でも全力では走ることも出来ないし、声も上手く出ないんだ」 静の退院後は頼れる人間は自分しかいないと、明は静を引き取り一緒に暮らすようになった。 『車椅子』の言葉に思い出したくも無い出来事が静の脳裏に浮かんだ。 あれは退院してしばらく経ったある日の午後。 車椅子の生活をしていた静は何処に行くにも明と一緒だった。 それに不満があった訳ではない。ただ、1人で出掛けてみたくなっただけだった。 いつものように明さんが仕事に行くのを見送ると、静は1人で出掛けてしまった。 いつもは2人で来ているすぐ近くの公園に行き、そこを行き交う人達を眺めていた。 本当はすぐに家に戻る予定だった。 でも、買い物をして夕飯の支度をして明さんを待っていたら喜んでくれるかな? なんて考えたら、そうする事しか考えられなくなってしまった。 幸い、財布は持って出ていた。 静は買い物に付いていく時に通る道を車椅子で進んでいった。 いつもはそこに車が駐車していることはなかった。 だから不注意だった、とは言い訳になるのだろう。 公園の出口でいつもならしている一時停止を忘れた静は、そこに駐車してあった車にコツンとぶつかってしまったのだ。 ぶつかったとは言っても、傷もつかない程度のささいなもの。 それでも、静は動揺してしまった。 『オイオイ、今、ぶつかったよな? アニキ、キズできてますぜ』 車から降りて来たのはいかにもなチンピラ風の男。 『ごめん……なさい……』 殆ど出ない声を振り絞っても相手には届かない。 『よく、聞こえないね。弁償しろって言っても無理か。なら俺の相手して貰おうかな』 チンピラ風の男の後ろから上等なスーツを着た男がニヤッと笑い自分を見てきた。静は背中がゾクゾクとするのを感じた。 逃げなければ、と思うのにチンピラ風の男が車椅子を転がし始め、恐らく周りからは"単なる散歩"にしか見えていないのだろう。 自分に注目する人間は誰もいなかった。 静は成すすべもなく、茂みに連れて行かれると車椅子から降ろされ、スーツの男にのしかかられた。 『ん? こいつ男か。髪長いし女かと思ってたが。まぁいい。男の方が具合が良いと言うしな』 自分が男であると分かれば開放されるかもしれないという、静の願いは儚く散った。 『アニキも好きッスね〜。でも、オレもこいつなら勃ちそうッス』 『なら俺の後に好きにすればいい。それよりも、足は上手く動かないだろうから上半身を動かないように抑えてろ』 『承知』 声を上げようにも、元々声が殆ど出ない。 何かあった時にと持たされた防犯ブザーの存在を思い出したが、首から下げるのが嫌で車椅子に付けていた。 その車椅子は自分の手の届かない所に転がっている。 万事休すとはこの事だ。 スーツの男は静の下半身を露わにすると膝裏に手を入れ、下衆な笑いを浮かべる。

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