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第6話.過去③
静は全てを諦めてギュッと目を閉じてこれから来るであろう衝撃に備える。が、いつまで経ってもそれはやってこず、自分にのしかかっていた重みも無くなった。
恐る恐る目を開けると、襲おうとした2人の輩は明にボコボコにされていた。
何でここに明さんが? 仕事に行ったはずじゃないの?
「明…さん……?」
掠れるような声だったが、明は静の声に気がつくとボコボコにしていた輩は捨て置き、静の元に駆け寄った。
「静……」
明はスーツのジャケットを静に羽織らせてから下着とズボンを履かせて抱き上げた。
すぐそばに転がっていた車椅子を起こして静を座らせる。
そのまま立ち去ろうとすると後ろから声をかけられた。
「てめぇ、こんな事してタダで済むと思ってんのかよ!」
「ああ、すぐに後悔することになるからな!」
あまりにも定番な脅し文句に明は振り向くと言い返した。
「この辺りだと銀龍会か、赤虎か? どちらの組長も知り合いだから、タダで済まないのはお前達だな」
静は明の言葉にぶつかった車に貼ってあったステッカーを思い出した。
「……車…赤……虎……ステ……カー………」
明は静の声に微笑むと、静の頭を撫でる。
「赤虎の赤尾悟さんには俺から話をさせて貰う。覚悟を決めておくんだな!」
凄みを効かせた明の声に、男どもは顔面を蒼白にすると、その場から逃げ去った。
男どもが完全に見えなくなると明は静の前にしゃがんだ。
「頼むから心配かけないでくれ。生きた心地がしなかったよ」
「ど、して……し…ごと……は?」
「忘れ物があって一度帰ったんだが、どこを探してもいないから」
だとしたら、それこそ自分のいる場所がわかったことが不思議になる。
「ああ、静の場所か? 防犯ブザーにGPSを入れてるから、どこにいるか分かったんだよ」
嫌だろうけどな、と明は申し訳なさそうな顔をする。
「だから首から下げるようにあれだけ言っただろ?」
明は車椅子に括り付けられている防犯ブザーを取り外すと静の首にかける。
静も格好悪くてもこれからは防犯ブザーを首から下げようと思ったのだった。
回想が終わるのと同時位に明の話も終わったようだ。
「俺からは以上だ。静の現状については、拓海よろしく」
「はい」
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