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第7話.主治医①

「僕は地迫拓海といいます。そこにいる地迫鈴成の兄で、静くんの主治医になります。とは言っても、出会ってからはまだ半年位かな。日は浅いです」 確かに出会ってからの日数は短い。それでも今までのどんな医者よりも信頼できる人だった。 静は出会えた事に感謝すらしていた。 穏やかに話をする姿は初めて会った時と変わりがない。 明さんがどうしても自分の笑顔をもう一度見たいと言う。 自分が笑わなくても誰も何も困らない筈なのに、どうしてそんなにこだわるのだろう。 静は明の気持ちが分からなく、イラついていた。 『頑固』 『頑固で何が悪い! 兎に角、ここで終わりにするから、一緒に行こう』 前回も、前々回も最後だと言っていた明の顔を静は見つめると長いため息をついた。 『ホントに……最後…なら………』 結局明の言う通りにしてしまうのは、静が明を信頼しているから。なのだが、静はまだ気が付いていない。 仕方ないという態度丸出しに言われた言葉でも、静の気が変わらないうちにと、明はその場で予約の電話を入れた。 『なるべく早く行きたいと思っているのですが………え? 今日の午後3時からですか? 分かりました。お伺いします。………本人の名前は本島静で、私は伯父で保護者の大野明と申します。……えぇ、では宜しくお願い致します』 まさか今日の今日で病院に行くことになるとは思っていなかった静は、今更ながらに明の提案に乗った事を後悔していた。 『静、昼は外で食べよう。で、そのまま行こう』 半ば無理矢理、明に連れ出された静は今まであった事をまた1から話さなくてはいけないのかと思うと気が重かった。 その時の昼は何を食べたのかも思い出せない程、静は病院に行くのが嫌だと思っていた。 今までよりもこじんまりとした病院の待合室に入ると、そこには誰もいなかった。 明さんが5時までは完全予約制だとは言っていたが、大丈夫なのだろうかと、一抹の不安が生まれた。 3時丁度に名前を呼ばれた。 『本島さん、中にどうぞ』 穏やかな声は静の耳にも心地良かった。 診察室に入ると、自分が思い描いていた医者とはかけ離れたような、"華やかで美人"という言葉がしっくりとくる男性がいた。 静はその医者を見るなり後ろから付いてくる明を振り返った。 静は明の恋愛対象が男性に向いていることも、何故だか好きなタイプも分かっていた。 感情が外に出るのであれば、間違いなくニヤリと笑っていたであろう。 でも、静の口角はピクリとも動かなかった。

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