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第58話.買い物
「オムライスも捨てがたいが、和食が食べたいな」
「そうですね……定番ですが、肉じゃがとほうれん草の胡麻和え、それにだし巻き卵と味噌汁ですかね。味噌汁の具は何がいいですか?」
サラサラっと献立を言われるだけで美味しそうな気がしてくるから不思議だ。
「具ってワカメと豆腐くらいしか思いつかないな」
「油揚げと大根とか、ジャガイモとワカメとか……」
「油揚げと大根って食べたことない気がする」
メモ用紙にメニューを書き込みながら静は鈴成の言葉に返していく。
「では、それにしましょう。買い物行かないと」
静はメモ用紙をしまうと立ち上がってエプロンをとり外す。
「オレ達で行って来るよ。買うものリスト貰えれば大丈夫だし」
敦の言葉に誠もうんうんと頷くが、静は冷静に見返す。
「野菜の選び方分かってる? 6人分ってどの位買えばいい?」
「え? 分からない。でも、顔」
「これで大丈夫」
静がマスクをするとアザはほぼ隠れた。マスクを動かさない限りは大丈夫そうだった。
「荷物持ちで俺も行くよ」
「なら、みんなで行こうか。お酒も買いたいしね」
拓海の一言で、全員で買い物に行くことになった。
スーパーの並びにある家電量販店の街頭でワイドショーが流れていた。
『今日で10年になるんですねー』
『この10年の節目にと、芸能界でも結婚ラッシュが起きています』
ふと足が止まる。
「この人達が結婚するなんてなぁ。イケメン同士だから絵になるけど」
隣に敦と誠も立ち止まる。
同性同士の結婚が認められて今日で10年。
今では結婚する3組のうち1組は同性婚らしい。
「ホント、お似合いだよね」
『ずっと一緒に生きていきたいって思ったんです。もちろん幸せですよ』
顔を見合わせて幸せそうに笑う映像を見て、静は自分とは縁遠い光景だと思った。
それと同時にまた羨ましいという思いが湧いてくる。
先を歩いていた拓海と鈴成が後ろを振り返った。
「テレビなら買い物して帰ってからにしよう」
高校に入るまではほぼ毎日通っていたスーパーに着くと、静はゆっくりと野菜を選んでいく。
スーパーに着くなり、拓海と鈴成の兄弟はお酒のコーナーに、誠と敦は一緒に何処かに行ってしまった。
カートにカゴを乗せ、選んだ野菜を入れていく。
調味料がどの位あったか見忘れたと気がついたのは必要なものは、あと卵だけになった時だった。
卵はレジの近くにあるからと、バラバラに行動しているみんなを探そうと静が思った瞬間足に何かがぶつかった衝撃があった。
いつもだったら何でもなかっただろうが、まともに寝ていなく体力が落ちていたからか、気が付いた時にはその場に尻もちをついていた。
ぶつかって来たのは子供だったらしく、静のマスクに興味を示して何の躊躇いもなく、それを握った。
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