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第66話.本音

涙は止まらず、足も動かず、静はどうして良いか分からなかった。 鈴成は静の前まで行くと抱き締めた。 「も……静………」 鈴成は本島くんと言おうとしてやめた。 今だけは教師としてでは無く、単なる1人の男として静に接したかった。 「…鈴、先生?」 「今だけ先生は付けないで欲しい」 まるで昨日の自分が言ったようなことを言われた静は小さな声で言ってみた。 「鈴成さん?」 鈴先生と言うのと殆ど変わりがないと思って言ってみたが、全く違う。 言葉が甘く広がって、心がホワンと温かくなる。 いつのまにか涙は止まっていた。 「座るか」 いつまでもドアの外側にいると落ち着かない鈴成は、静を連れてリビングダイニングに入る。 「ソファでいいかな?」 より近くにいたいという思いの表れだった。 ソファに座ると静は鈴成のことを見つめる。 「どうした? 言いたいことがあれば言っていいよ」 「さっきの本当、ですか?」 照れたように頭をカシカシとかくと、鈴成は静を見つめ返す。 「本当だよ」 「僕、好きとかそういうのはよく分からないんです。だから」 「元々返事を期待して言った訳じゃ無いから大丈夫。ただ、そういうのが分かったら聞かせて欲しい」 鈴成は静が聞いていないと思っていたから本音を言ったのだ。 静はコクンと頷くと無意識に微笑んだ。 真っ白なエプロンを着て照れたように微笑む静がまるで新妻のようで、鈴成は落ち着けと自分に言い聞かせる。 「もし、俺以外の人を好きになってもちゃんと言って欲しい」 鈴成の申し出に静はキョトンとする。 鈴成のことを好きになることはあっても、他の人を好きになるなんて考えられなかった。 でもそんなことは言える訳がない。 「なら、鈴…成さんも他の人を好きになったら言ってください」 そう言いながら静の胸はズキンと痛む。 「うーん、たぶんそれは無いと思う。ちゃんと本気だから」 優しく微笑まれて、痛みは無くなり胸がキュウッとする。 鈴成の笑顔が眩しくて目を逸らすと壁の時計が目に入った。 「そろそろ時間ですね」 「本当だ」 鈴成も腕時計を見ると立ち上がり、スマホを取り出す。 「あ、兄貴? うん。そろそろ帰るよ」 すぐに明と拓海がやって来た。 「ちゃんと話せたか?」 明の問いかけに静は頷いた。 「そうか」 幸せそうに微笑む静の頭を撫でると明は鈴成を見た。 「鈴成くん、ごめんな。騙すみたいな聞き方して。拓海に逆らえなかった」 「大丈夫です。気持ちを言ったら抑えが効かなくなりそうだと思っていたんですが、逆に落ち着きました。これから気長に返事を待ちます」 スッキリとした顔で微笑んで静を見る鈴成に、いつの日か静を託す日がくることを予感させた。 明は自分の考えに苦笑すると鈴成の肩に手を置いた。 「静は色々と自分の中に溜め込むところがあるから、注意して見てやって欲しい。校内では難しいとは思うが、拓海と一緒に見守ってくれ」 「分かりました」 鈴成が学校に帰るのをいつの間に来ていたのか、敦と誠も含めて全員で見送ると、リビングダイニングに戻って静は質問責めにあったのだった。

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