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第74話.後悔
カーテンがきっちりと閉められ、風間先生が声のトーンを落としているからか、外には殆ど声が聞こえてこない。
鈴成は未だに蒼ざめているハルの前に立つ。
「諸角、お前は教師になりたいんじゃないのか?」
「……なりたい、です……」
「なら、何で生徒を傷つけるような事をした?」
自分がしてしまった事の重大さが今頃分かったようで、ハルは大きく目を見開いて、ピンクのカーテンを見る。
「何があっても守らないといけないだろ?」
私情がたっぷりと入っていたが、気がつく人はいなかった。
「ごめ、、なさい」
ハルの目からポロポロと涙が溢れる。
鈴成はハルの頭に手をポンと置いた。
ハルはそのまま鈴成に抱きつき胸に顔を埋める。鈴成は仕方なく頭をポンポンとした。
そこに誠が持ってきた服に着替えた静が出てきた。
「え?!」
静は抱き合う2人の姿を目の当たりにして立ち竦む。
「静くん? もう動いて大丈夫なの?」
「え? あ、はい。ちょっと病院に行ってきます」
「静ちゃん、久しぶり」
「諒平さんもいたんですか? それにしては静かでしたね」
静はあくまで冷静を装う。
2人が抱き合うのを見て誰も何も言わないということは、きっとそういう事なのだろう。
『他の人を好きになったら言ってください』そう言ったのは自分だったが、静は2人を見て胸がズキズキと痛み“嫌だ”と思っていた。
何が嫌だというのだろう。
「あら、私だっていつもうるさい訳じゃないのよ?」
「旦那さんが一緒だからですかね」
諒平と話していても目の端に映る2人が気になって仕方がない。
「もう大丈夫か?」
鈴成の殊更に優しく喋る声が耳につく。
「風間先生、僕は車に乗れないので歩いて行きます。時間がかかるので、もう出ますね」
「じゃあ、俺達も一緒に行きます。な? 諸角」
「……はい……」
そんなに一緒にいたいのなら、2人で何処かに行けばいいのに。
そうして欲しくないと思っているはずなのに、頭の中がごちゃごちゃしていて訳が分からない。
静は自分の本当の気持ちが分からなくなっていた。
鈴成が静に向かって手を伸ばし、肩に触ろうとした。
「やっ!」
パシンッ
静は初めて鈴成のことを拒否した。
静は鈴成の手を払ってしまった自分の手を、鈴成も払われた自分の手を眺める。
静は何も言わずに鈴成の横を通って保健室から出て行った。
追いかけようとする鈴成を止めたのは諒平だった。
「静ちゃんのことは私が責任持って送るから」
「でも」
「でもじゃねぇよ。あの子のこと傷つけたことも分かってねぇんだろ? ない頭絞って考えてろ」
諒平はいつものオネエ口調を封印すると、鈴成の耳元でそう言うと、静を追った。
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