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第76話.風間邸
「…可愛い……」
玄関も部屋の中も触ったらモフモフしてそうなもので溢れていた。
「どれでも触っていいのよ。厳選してるからどれも触り心地はいいと思うわ。気に入ったのがあれば持って帰ってもいいから」
「え?!」
静は触ろうとした手を思わず引っ込める。
触ったらきっと欲しくなってしまう。でも貰って帰るのは違う気がした。
「とりあえず、先に診察かな。奥の部屋に来て」
風間先生の後に続く。
ソファ自体も座ったら立ち上がるのが嫌になってしまいそうだった。
奥の部屋に入ると、さっきのメルヘンの世界とは全く違かった。
「先生のイメージはこっちですね。モノトーンで落ち着く感じ」
「慣れは怖いよ。最近はここよりもあっちの方が落ち着くんだ」
静はそれを想像してクスクスと笑う。
でもその想像の中には必ず諒平の姿がある。
「本当に先生と諒平さんてお似合いですよね」
「急に何を言うのかな? そこのベッドに横になって」
照れているのか、風間先生は少し頰を赤らめた。
静は言われた通りベッドに横になると服を捲り上げた。
「エコー検査をするから、ちょっと冷たいよ」
冷やっとするのは初めだけで、検査自体もすぐに終わった。
「うん、特に入院とかは必要ないかな。前にも言ったけど、思い切り走るのはダメだからね。一応、背中も見せて。座ったままでいいよ」
背中の傷を触られる。
走った時に痛みを感じた箇所もあったが、今はなんともなかった。
「背中も問題ないね。これで診察はおしまい」
「心配かけてすみませんでした」
「それは諒に言ってあげて。とても心配してたから」
「諒平さんが?」
静は首を傾げる。
「静くんが産まれた時から知ってるだろ? なんか母親みたいな気持ちになるらしい」
「そう、ですか」
静は目をぱちくりとさせる。
明と風間先生は父親で、拓海と諒平が母親?!
だとすると、敦は兄で誠は弟か?
大家族だな。
そこに鈴成も入れたいと思うが、入れちゃいけないとも思う。静は楽しかった想像から一気に苦しくなってしまった。
メルヘンのリビングダイニングに戻ると、1番会いたくない人が諒平と話をしていた。
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