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第77話.新しい友達

「諸角先生?」 静の小さな声に反応して、ダイニングの椅子からハルが立ち上がってこちらを見た。 ハルの目は真っ赤で泣いたことが一目で分かる。 「私達は診察室の方に行ってるから。ちゃんと話しなさいよ。ほら伸晃(のぶあき)さんはこっち」 「はいはい」 奥の部屋の扉が閉まるとハルはその場で深く頭を下げた。 「本当にごめんなさい!」 こんな風に謝られたら許さない訳にはいかなくなってしまう。 静は何も言わずにさっきまで諒平が座っていた所に座った。 「先生も座ったら?」 「あ、うん」 向かい合う形で座るとハルが話し始めた。 「ある生徒から本島くんが体育の授業に1度も出たことがないって聞いて、本当なら本島くんからも話を聞かなきゃいけなかったのに………」 ハルは下を向いて苦しそうな顔をする。 「先生は僕のこと嫌いなんですよね?」 「え?」 「いつも目の奥が笑ってなかったから」 ハルは驚いた様子で静を見る。 「鈴先生のことはずっと好きなんですか?」 「それなんだけど、地迫先生のことは学生の頃は好きだと思ってた。でも、大学で恋人が出来て単なる憧れだったんだなぁって分かったんだ」 「え?!」 ハルに恋人がいるということが信じられない。 「なんか学校に戻ってきたらあの時の気持ちが甦っちゃってね。地迫先生が休んでる本島くんのことを愛おしそうに話すもんだから、敵対視したんだと思う。先生になりたいなんて、資格ないよね」 ハルは苦笑する。 ハルに恋人がいて、鈴成のことは何とも思ってない。 さっき抱き合っていたのは、鈴成が生徒を元気付けようとしたのと一緒? あまりに自分に都合のいい考えで、静は1度考えるのをやめた。 「生徒の気持ちになれるなら、そういう先生がいても僕はいいと思います」 「本当にそう思う?」 「はい」 「ありがとう! さっきの質問だけど、本島くんのこと嫌いじゃないよ?」 「え?」 嫌われていると思っていたから、静はハルの言葉に驚きを隠せない。 「むしろ好きなんだよね。だからいじめたくなっちゃったのかなぁって、それじゃ小学生みたいだね」 “好き”だと言われたのは、鈴成以外で初めてでどうしていいかわからなくなる。 「え? 何で顔真っ赤になってるの?」 「だって、好きとか言うから」 ハルは可愛い反応をする静の頭を撫でた。 「そういうのは本島くんが本当に好きな人にだけ見せなきゃ。誰にでも見せちゃダメ」 本当に好きな人って何??? 「あの、お願いがあるんです」 静は唐突にそんなことを言い出した。 「もしかして、もう話しかけないでほしいとか?」 「違います。あの……友達になってもらえませんか?」

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