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第131話.喫茶店③

そうなると、調教計画がどんなものなのかを知る必要があった。 「さっき言ってた僕の調教計画って分かる?」 「少し待って下さい」 晴臣はスマホで電話をかける。 おそらく相手は吾妻だろう。 「……一樹か? 今少し良いかな……うん、静さんと一緒に雨音の店にいるけど……え? 近くにいる?………」 カランカラン ドアが開く音がした。 「カズくん、いらっしゃい。晴臣なら奥の席にいるよ」 雨音の声がしてその後にありがとうと小さい声が聞こえてきた。 「晴臣……静さん、お久し振りです」 「吾妻、久し振り。お前はあの頃と全く変わってないように見えるね」 吾妻は今にも泣きそうな顔をしている。 「相変わらず泣き虫なの?」 「静さんを調教なんてしたくありません」 「僕はもう覚悟を決めたから。忘れたくないことはたくさんあるけど、仕方ないよね」 静の目に不安と恐怖が戻ってくる。 「僕の調教計画を教えて欲しい」 まっすぐ静に見つめられた吾妻は、その潔さに息を飲む。 「まずは座ってこれでも飲んで落ち着きなさい」 雨音は吾妻を晴臣の隣に座らせて、コーヒーを置いた。 「雨音さん、ありがとう」 吾妻はコーヒーを一口飲んでふーっと息を吐いた。 「調教計画は本人には教えられないのが決まりなんだけど……」 「そっか、じゃあ一点だけ。秀明さんが病院から帰るまでに僕の声は奪われる?」 吾妻の性格上決まりを破るのは難しいので、静は質問を変えた。 「声、ですか? それは大丈夫。でも、どうして?」 小首を傾げる吾妻に誠が重なり、静は眩しそうに見つめる。 「捕らえられてる人達を外に出したいって思っててね。それを秀明さんに伝えられるのは初めての時かなって」 その言葉に吾妻は静が秀明に抱かれることを覚悟していることを知った。 「それを秀明様が承諾するかな」 「上手くやるから大丈夫。僕1人は残るし」 「……1人残る?!」 サラッと言われた言葉に吾妻は驚く。 「うん。全員いなくなるなんて、それこそ承諾する訳ないでしょ?」 少し冷めた紅茶をまた一口飲んで、静は言葉を失っている吾妻にこう言った。 「吾妻、調教は手を抜かないこと。それと出来れば大切な人は秀明さんだって思い込ませて欲しい」 「……分かりました」 この後、雨音の作ったナポリタンを食べ、12時になってから3人は大野家という名の地獄へと向かったのだった。

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