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第130話.喫茶店②

「ターゲットに選ばれた時点でそういうことになるって思ったから、覚悟は決めてるけど……やっぱり怖いね」 「静さん………」 晴臣は名前を呼ぶことしか出来なかった。 「僕の事はまた後ででいいや。諒平さんの所での話では監禁されている人って、結構いるって言ってたよね? どの位いるの?」 不安や恐怖に揺れていた目にまた力が宿る。 「静さんと同じターゲットとして呼ばれた方は1人ですが、暴力団で拉致された方が8人ほどいらっしゃいます」 「僕が行くとちょうど10人になるんだね」 少し目を閉じてから何かを決めたように、静はまっすぐ晴臣を見つめた。 「僕1人を残して全員を解放する方向に持って行きたいと思ってるから。晴臣さんなら全員の素性も知っているでしょ? 帰る場所の確保をしてあげて下さい」 「静さん?!」 静の突然の言葉に晴臣は驚きを隠せなかった。 「秀明さんのことだから暴力団に拉致された人達の借金は支払い済みで、解放された後また暴力団に拉致されるなんてことはないでしょ?」 「それは、そうですが……静さん1人で秀明様の相手をなさるおつもりですか? あなたが壊れてしまいます」 人形のように着飾るだけだったり、抱かれるだけだったり、自慰を強要されたり。ローテーションのようにぐるぐると回る。 だから体を休ませる時間があることが普通だが、9人で分けていたことが1人に集約したら、どれだけ大変か計り知れない。 「……たった2ヶ月位だったけど、僕は幸せを知った。秀明さんのところに行ったら、もうみんなのところには戻れないかもしれないけど……それも覚悟の上だし、これは身内である僕がしなくちゃいけない事だから」 身内という言葉が重かった。 どれだけの覚悟を決めてここに座っているのだろう、と晴臣は静を見つめる。 血の繋がった祖父に抱かれる事を、幸せだったことを忘れてしまう恐怖を、大好きな人達と会えなくなる悲しみを………。 雨音がコーヒーと紅茶とココット皿に入ったレモンのスライスをテーブルに置いた。 「お代わりあるからいつでも言って」 「はい」 静は一口紅茶を飲むと微笑んだ。 一方晴臣は静の言葉にコーヒーを飲む余裕がなくなっていた。 雨音がカウンター内に戻ったことを確認してから静はまた口を開いた。 「サファイアのことは僕の主治医2人が色々と調べてくれるはずだから。まずはそこに全員連れて行ってあげてね。心療内科医の拓海さんがきっとみんなの心を助けてくれると思う」 その中に静自身はやはり入っていない。 「サファイアで声も奪われる?」 「今まで私が関わった方々は皆さん目が見えなくなっておられましたが、声は普通に出せるままの方が多いかと。秀明様のお名前と喘ぎ声だけは出して良いと調教された方もいますが」 静は自分は後者になるような予感がした。

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