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第129話.喫茶店①

準備中の札がかかっているが晴臣は気にすることなく、ドアを開けて静を見た。 「静さん、入って下さい」 「でも、準備中じゃないの?」 「ここは兄の店なので、気になさらなくて大丈夫です」 そう晴臣に言われて素直にドアをくぐった静は店内を見て、ほぅっと息を吐いた。 外見からは想像出来ないが、店内は壁や床、カウンターやテーブル、椅子も天然の無垢板を使用しているのか、とても温かい印象だった。 「素敵な喫茶店ですね。木の触り心地が最高です」 「そんな所に目を付けるなんて、若いのに分かってるね」 カウンターの奥から急に人が出てきて話しかけられた静はビクッと肩を震わせた。 「雨音(あまね)、怖がらせないで下さい」 「あ、初めまして。ここの店主の白石雨音(しらいし あまね)です。晴臣とは腹違いの兄弟なんだ。だから似てないでしょ?」 静は2人を見比べてニコッと笑った。 「目元はそっくりですね。後は似てないけど」 「「どこが?」」 2人の声が重なってまるでハモっているようだ。 静は楽しそうにクスクスと笑っていた。 晴臣は静の笑顔はこれで見納めかも知れないと思っていた。 「座りましょう。今後の事も話したいのですが……」 「じゃあ、あの奥かな」 カウンター内からは全ての席が見えるようになっているが、誰かが入ってきても一目では見つからなさそうな席を静は選んだ。 「晴臣はコーヒーだよな? 君はどうする?」 「紅茶をお願いします」 「レモンは別で付けるかい?」 「はい。ありがとうございます」 静は細かい所に気を配るところも似ていると思った。 席に向かい合わせで座ると晴臣が口を開いた。 「秀明様の入院は本来、来週の予定だったんです」 「そう、どの位で帰ってくる?」 「おそらく、2週間前後かと。吾妻には静さんの調教計画を指示されたようです」 調教計画という言葉に静の顔が曇る。 目の奥には恐怖が宿り、笑っても先程までの屈託のない笑顔にはならないだろう。 「僕は母さんに似てきたかな?」 「明美様にですか? えぇ、笑った顔などは本当によく似ていらっしゃいますよ」 静の質問の意図が分からないが、晴臣は正直に答えた。 「少し前に明さんにも同じこと言われた。だとすると秀明さんは僕を抱きたいんだろうね」 コーヒーのいい香りが漂ってきた。 その香りを感じられなくなるような衝撃を晴臣は感じていた。 「それは、どういう……?」 「まだ小学生の低学年だった頃に一度だけ大野家に行ったことがあって、その時の母さんを見る秀明さんは欲望にまみれていて嫌だって思ったんだ」 血の繋がった親子なのにね、と静は目線を机に落とす。

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