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第132話.◇からっぽ

明が出て行ったドアをずっと拓海は見つめていた。 嘘だと戻って来るんじゃないかなんて思っていたけど、そこはビクともしない。 「……兄貴? 玄関で何……?! 泣いてる? 何があった?」 「明、さんが、いなく、なった……」 明の字を真似て“ごめん”と拓海が書きなぐったメモを鈴成に見せる。 「静、くん、は?」 いないと分かっているのに、残酷なことを聞いていた。 「こっちに来てるんじゃないのか?」 鈴成は部屋中を走り回る。 ドアというドアを開けて確認する。クローゼットの中など隠れられそうな所までくまなく見て回り、戻って来たら絶望を背負っていた。 「どこにもいない。消えた?」 まるで元からいなかったかのように、この家の主人も甥っ子もいなくなってしまった。 「静、くんも、いない?!」 「いや、外にいるかもしれない。ちょっと探してくる」 鈴成が風のように家から出て行くと、拓海は本当に2人がいなくなったことを実感した。 リビングに戻って拓海は明が座っていたソファに座ると膝を抱えた。 指輪は嬉しいけど、本人が隣にいないと苦しさばかりが増してくる。 でもそんな事は言ってられない。 自分は明さんのことも静くんのことも信じて待つと決めたのだから。 拓海は洗面所で顔を洗ってから、しっかりしろと頰をパンッと叩いた。 その足で静がいた隣に行ってみる。 リビングダイニングのテーブルの上にスマホが1台乗っていた。 手に取って電源ボタンを押すと何のロックもかけられていないそれは待ち受け画面が表示される。 JOINのアプリに新着があることを示す数字が2と表示されている。 おそらく敦と誠だろうが、それが既読になる事は無い。 このスマホをどうしていいか分からず、拓海は持ったまま自分のリビングダイニングに戻る。 そこに鈴成も戻ってきた。 「鈴?」 「どこにもいなかった。スーパーも公園もコンビニも、交番でも聞いてみたけど、いない。明さんと一緒ってことはないかな?」 「明さんのパスポートは無くなってるけど、静くんのは残ってるんだよ」 拓海の言葉に鈴成は頭を抱える。 「どこに行ったんだよ。……昨日様子がおかしいかもって思ってたのに、もっと話をすれば良かった」 目を閉じれば無表情だった静が笑うようになり、自分に好きだと顔を赤く染め、指輪を見つめて微笑む、そんな姿が見える。 でも、目を開けるとその姿はない。 拓海は鈴成の悲しみが手に取るように分かった。 2人で未来を見て夢と希望でいっぱいだったはずなのに…… 声を上げずに涙を流す鈴成を拓海は抱きしめることしか出来なかった。

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