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第268話.憤り
湯船のお湯は浴室に入る時には丁度いい量になっていた。
バカ親父が逃げないように玄関に置いてあった車の鍵と自分のレンタカーの鍵も合わせて2本浴室に持って来た。
スヤスヤと眠っているような静にぬるめのお湯を出したシャワーを足から当てていく。
時折眉をしかめるようにするが、目を開けることはない。
下半身にお湯を当てていると、ヌルリとした感触がした。
お尻から白いものが出てきていて憤りを感じる。
バカ親父はコンドームもせず中出しをしていたのか。
「静、ごめんな。少し触るよ」
中出しをされたものを出すことすら許されていなかったのか?
後孔にボディソープで泡まみれにした指を当てる。
「………ひゅっ………」
息を飲み体を硬直させる静は、バカ親父との行為を嫌がっていたと分かる。
「爪立てても大丈夫だからな」
背中をポンポンと叩き体の力が抜けた所で指を中に入れる。
中の出されたものを掻き出すだけ。
終わればすぐに指を抜く。
だけど、静は今までされていたことを思い出すのか、イヤイヤと首を横に振る。
口が動く。
注意深くその動きを見れば、なんと言いたいのかが分かる。
『嫌だ。助けて』
静の心の傷は以前の比ではないだろう。
「綺麗にするだけだ。何もしないよ」
意識が無くなったのか、それ以降静が口を動かすことも体に力を入れることもなかった。
傷が痛そうでボディソープを泡立てて、手で体を洗った。
2人で湯船に浸かり、体を芯から温めると風呂から上がる。
持って来た着替えを着せて、俺もGパンとポロシャツを着る。
着替えは親父のところに行く直前まで着ていたものだが、ぶかぶかになっている。
上手く食事が摂れていないのだろう。
リビングに戻るとバカ親父はソファに座っていた。
「逃げなかったんだな」
「それは私の信念に反するからな」
信念ね……。
「静を連れて来たということは、育てるつもりだったのか?」
「育てる? それは私のものだ。どうしようと私の勝手だ」
「さっきも言ったが、静はあんたのものじゃない。それにあんなことして、殺すつもりだったのか?」
「私のものではない、ね。それは私無しではいられんと思うがな」
ニヤリと笑うバカ親父を殴りたいと思うが『冷静にね』という拓海の言葉を思い出す。
拳を握るがグッと堪える。
「人はなかなか死なんものだな」
「まさか、湖に入れたのは今日が初めてじゃないのか?!」
「ここに来てから日課だったからな。4回目だ」
犬の散歩に行っている人のような口振りだった。
その事が悪い事だとは全く思っていない。
話す事自体、無意味だと感じる。
俺はスマホを取り出して警察に連絡をした。
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