濡れた髪をタオルで拭いて、ドライヤーをかけるのにユウは彼の足の間でちょこんと座ってされるがままに大人しくしている 彼は指の間ををすり抜けるようなユウの柔らかい髪の毛を丁寧に乾かしていく 目を覆うほどの長さになった前髪に気づくと掬うように指に絡めて巻き付ける 「後で前髪切ろうか」 ユウに投げた言葉はもちろん返事など返ってこない 明後日の方向を見ながらぼんやりしたり、何ともなしに笑ったりするユウに構わず彼は自分の話を続けていく 「ユウは何かやりたい事ある？何か食べたい？？今日はどうしようか...」 髪を乾かし終わるとドライヤーを消して彼は思いっきり後ろから抱きすくめた すると洗い上がりの石鹸の匂いと真新しいシャツの匂いが混じって彼の心を緩く刺激していく 抱きすくめられたユウは嬉しそうに振り向いて、彼がその唇にチュッと軽く触れられると零れるような笑顔を見せた このしゃべれない、わからない、何もできない生き物は自分がいないと生きていけない これが生きていくためには自分に頼るしかない ユウの生死与奪が自分の手にかかっていると思うだけで愛しくて愛しくてたまらない なんでもして、なんでも与えて、そしてなんでも奪ってやりたい その全部を自分に捧げて、誰にも見せない、 触らせない 誰も知らない場所に頑丈に鍵をかけて閉じ込めたい 彼にとってユウは何重にも何重にも包んで大切に隠しておきたい自分だけの所有物だった 彼は食事の支度をするためにキッチンに立ちながらカウンター越しにユウを観察していた テレビの前に座らせて、子供番組を見をみせてやると大きな着ぐるみのキャラクターが映るたびに、画面に触れては指を指して声を上げた ユウのあまりの反応に彼はクスクスと笑いながら眺めていた 「あーっ！あっ！あっ！」 はしゃぎながら何かを一生懸命伝えようと何度も振り返って声をあげる 「ユウ、もうちょっと離れて？」 彼の忠告はテレビ画面に張り付くように興味を示すユウには届かない 彼はキッチンからリビングへ戻るとガラステーブルに置かれたリモコンへ手を伸ばした そしてリモコンでテレビを消すとそのリモコンをユウに勢いよく投げつけた リモコンはユウの肩にぶつかって床に落ち、中の電池が飛び出して散らばる 「離れろっていったろ？」 ギロリと睨むように目線を向けて顎で後ろを指すとユウは慌てるように身を縮めた そのまま目の動きを読んで下がると膝を抱えて体育座りをする 「ユウはいい子だね」 縮こまったユウの頭を撫でようと手を挙げるとぎゅっと身体を強張らせてしまった 彼はそんな怯えるユウの姿がたまらなく好きだった ゾクゾクと刺激される欲を抱えたまま彼はまたキッチンに戻り食事の支度を続ける チラリとカウンターからユウを覗いてみるとしゅんとして膝を抱えたままおとなしく座っている 時より指先で膝に円を描いたりして時間を持て余しているように見えた しばらくすると彼は適当に作ったチャーハンを皿に盛ってリビングに戻ってきた 部屋中に香ばしい匂いが立ち込めうずくまっていたユウも思わず鼻をひくひくさせている 「お腹すいた？」 ユウに彼が声をかけてみるが、そこから動かずじぃっと見ているだけだった 「食べたい？」 もう一度聞いてみる ユウは動きはしないものの、目だけはその皿に釘付けだった 「あはは...おいで？一緒に食べよう？」 彼が笑って手を差し伸べるとようやくそろそろと動き出し行儀良くちょこんと座る 彼は皿に盛られたチャーハンをスプーンに乗せてユウの口に運んだ するとぱくりと食いついたと思ったらすぐに飲み込んで次を強請って口を開ける 彼はそれが面白くて、何度も何度も繰り返しユウの口に運んでいった まるで親鳥が子供に餌をあげるようなそんな図だった そのうち彼はふと思い出したように立ち上がり冷蔵庫へ向かう 「今日はユウの大好きなプリンがあるんだよ」 キッチンから微笑みかけた彼の手には小さなカップのプリンが握られていた それを見たとたんユウは目を見開いてキラキラと輝かせた 「はい、アーン」 今度はプリンをスプーンに乗せると、ユウは口を開けて赤い舌をべぇっと突き出した 突き出された舌のうえにプリンを乗せてやると口の中でじっくり味わうようにして飲み込んだ 「ユウはプリンが大好きだもんねー」 ふふっと笑った彼がまたプリンを舌に乗せたとき彼は自分の舌も滑り込ませ、甘くなった唾液を味わう 「甘...」 ユウはいきなり入り込んできた彼の舌にびっくりしたような顔を向ける 「俺とどっちが美味しい？」 彼は意地悪く笑って目を細める ユウにはそれが何を意味するかは分からない 何かを聞かれているのは分かるがそれが何かはわからない 答えようがないけど、答えないとまた痛いことをされる ユウの目は無意識に左右に泳ぎだした 彼は口元を歪めて笑い、また軽く唇に触れた 「やっぱ、もうちょっと言葉覚えてもらわないとだめだね」 次は何にしよう 褒めるのはなにか 罰を与えるのはどうするか 考えれば考えるほど楽しい 無意識に顔がほころぶ彼の顔をユウは不思議そうにのぞき込んでいた