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第9話

「先生が来ないからこうなるんだよ」 そういって嘲るミツルの顔を見ていると背筋が凍っていく気がした 「どういう意味?」 「うん?そのまんま...来てくれないとこうなっちゃうんだよ...俺ね...」 ミツルの言い分はひどく理不尽なものだった 「先生は優しいから、ユウのことも俺のことも気になって気になって仕方なかったんじゃない?」 口の端を引き上げた笑い方は不気味なほど恐ろしい 「ほら...目が赤い...昨日眠れた?」 「なんで.....」 「遅いからもう来ないのかと思った...けど来てくれた。警察に言ったり、誰かと来ることだってできたよね?でも来てくれた。一人で。会いたかったでしょ?俺に、会って確かめたかったでしょ?」 ミツルのその目は椎名にそらすことを許さなかった こんなにも目だけで人を縛りつける人間は見たことがない 仕事がらいろんな人間を見てきたはずなのに... 「自分が昔、治療した人間が本当はイカレテルか確かめたかったでしょう?」 自分が知っている彼ではない...それだけは分かった かつて自分のもとに通っていた彼はまっすぐで脆くて時に暴力的なところがあったけれど、そんな自分のことを怖がっているようなそんな子だった 「イカレテルなんて...だけどこんなことする子じゃなかったはずだろう?」 「....?」 「君は..本当は優しくて...人を傷つけるような子じゃなかった」 「聞いたぁ?ユウ、俺、優しいって...」 話をさえぎるように床に座りこんだユウを今度は抱きあげて笑った 「先生が...俺が優しいんだって!ユウは?そう思う?」 ミツルが笑うとさっきまで泣いていたユウも反射的に笑顔を見せる 昨日と今日....ユウと呼ばれるこの子の話す声が聞こえない それどころか彼に縋るようなこの仕草 二人の依存した関係性がひどく不気味だった 「先生..ほら..ユウの傷、手当てしてよ」 言われるがままに椎名はカバンの中を弄った 逆らってはいけないと思った この場をうまく切り抜けて... 「このまま帰れると思わないでね?」 見上げたミツルの目はどんよりと歪んで見えた 「先生も一緒にいて?」 「なに言って...」 「先生が帰ったら俺...ユウに何するか分んないよ?先生のせいでユウが死んじゃうかもね」

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