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第8話
ここに来るのが怖かった...
だれかに助言を頼むこともできたのに...
警察に行くこともできたのに...それでもミツルに言われた通りに必要な道具を持ってここまで来てしまった
「来てくれないんじゃないかと思った...」
ミツルは椎名が抱えた荷物を受け取りながら言った
「あのこは...?」
「今日は具合がいいみたい...」
そういいながらミツルはユウが寝ている寝室まで案内する
ベットに寝かされたユウは椎名を見るなり顔をこわばらせた
おそらく昨日の包帯を変えたのがひどく痛かったのだろう...
椎名のことを「痛みを与える人」と認識しているようだった
ミツルはユウを抱き起して椎名を紹介した
「ユウ...昨日の先生だよ?大丈夫だよ...怖くないよ?」
ユウはミツルの胸の中に顔を隠すようにして、横目でチラリと椎名を見ていた
「大丈夫だよ...ユウの痛いとこ、治してもらおうね?」
そういって手招きしてユウのそばに椎名を座らせた
「ちょっと顔見せて?」
ベットに座り、椎名は少年の顔に触れてみる
真っ白く透き通る肌の頬が赤く染まっていた
戸惑い、おびえように椎名の顔を上目づかいで見ながらきょときょとと彼を仰いでいる
「ごめんね?見せて」
椎名が優しく諭してもユウにとっては怖い気持ちが大きいようで避けるように椎名から目を逸らしていく
するとミツルはユウの包帯が巻かれた二の腕を思いっきり強く掴んだ
「ぎ...ッぁ」
苦痛に顔を歪ませるユウに向かって彼は冷たく言った
「ユウ?先生が見せてっていってんの」
ギリギリと力を入れて痛みを与えるのを目の前にして、椎名は思わずミツルに飛びついた
「なにやってるんだよ!離して!」
腕を掴んだ手をもぎ取るようにしてユウから離すと、巻いてあった包帯にうっすら血が滲んだ
「これじゃ傷口がひらくだろ!」
声を荒げながら椎名はユウを自分の方に引き寄せた
ユウは目をぱちくりさせながらひどく驚いてそのままベットから転がるように落ちてしまった
足のけがのせいで受け身も取れず、ユウはベタリと床に倒れこんだ
「ごめん!大丈夫?!」
慌てて抱きおこそうと手を伸ばすと、ユウはその手を払いのけて、ミツルに腕を伸ばした
「うぅ...」
今にも泣き出しそうにしてミツルに抱いてもらおうと必死に片手を伸ばしていた
「ユウ....ちゃんと見てもらうんでしょ?」
そういいながらミツルはユウを見降ろして、伸ばされた手に触れることはなかった
空を掴むように伸ばされた腕は行き場所をなくして、ユウの膝に戻ってしまう
「ユウ...せっかく来てくれたんだよ?ちゃんとして」
床でうずくまるユウに向かってミツルは冷たく言い放って、足でユウの太ももを踏みつける
「いっ...ぁぁ」
「ちょっと!やめろって!」
目の前で繰り広げられるその行為に椎名は体ごと抱きついてユウをかばっていた
ユウのそばに座りこんで目線を合わせると、その目からポロポロと涙が零れ落ちた
「大丈夫だよ?泣かないで?」
椎名は泣き出したユウの頭を撫でて慰めながらミツルを睨みつけた
「なんでこんなことするの?!泣いてるじゃないか?!」
するとミツルはひどく冷淡な声で椎名に向かってこう言った
「先生が遅れてくるからいけないんだよ」
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