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第19話
「...とりあえず...手当しようか..」
鎖が長いおかげで椎名はそばにあった自分のカバンを掴むことができた
カバンの中を弄って携帯がないか確認してみたけれど、案の定抜かれてしまっていた
「...だよね...」
両手は手錠でつながれていたけれどその短い手枷の状態でも簡単な動きならできそうだった
消毒液とテープ...ガーゼと...必要なものを取り出してユウの前に並べて置く
一つ一つ取り出すたびに物珍しそうに眺めていた
「そんなに見ても...別に普通のだよ?」
それから椎名はガーゼに消毒液をしみ込ませながら咥えた手を出すように言った
「手..見せて?」
ユウは手を咥えたままキョトンとして椎名の顔を見るだけ
「?ほら...」
ユウの手を半ば強制的に掴むと、口元から離れて唾液が糸を引いた
「ぅ...?ぁあ...」
小さく声を発するユウに椎名はある事に気が付いた
「ねぇ?こんにちはっていってごらん?」
「あ...ぁ?」
「君...」
それまで気が付いていなかった
そして、合点がいった
なぜ声を聞かなかったのか.......
「助けて」も「嫌だ」も、一切聞こえなかったのは本人が喋れなかったからなのだ
「そうか...そうだったんだ」
ユウはずっと一人でミツルとここで過ごしてきたのだ
言いたいことも言えず、誰にも助けを求めることもできずに......
そう思うと自然に涙がこみ上げてくる
胸の中でなにかがキュッと掴まれるような気がした
「ごめんね、気づかなくて」
キョトンとしたままのユウに溢れそうな涙を我慢しながら伝えると今度は軽く首をかしげた。
「分からない?」
理解するのも難しいのか......
そう思うとなおさら胸が痛かった
ユウの頬は白くて綺麗だったけれど、口の端や目の辺りに細かい切り傷が見えた
「どうして、君のご主人様はこんなひどい事をするんだろうね?」
そう言って頬に触れると、ユウは椎名の手に顔をすり寄せて無邪気に笑った
「......!」
ふいな笑顔が胸を締め付けた
椎名はユウの小さな手をギュッと握った
「僕が君を守ってあげるから」
その意味を理解したのかしてないのか......
手を繋がれたまま目線はもう違うところを向いている
ミツルがユウに危害を加えないように守ってあげなければ
ユウを救うことはミツルを救うことにもなるのではないか
昔、立ち直らせることができなかった彼を救うことが僕にできることなのではないだろうか
これが僕の免罪符だ
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