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ユウと椎名
「はい、できた」
椎名はユウの手にガーゼを施すと手の甲をポンッと叩いて笑って見せた
「あー...」
ユウはその手を上にあげると嬉しそうに眺めている
手錠のついた限られた範囲でもユウが大人しく我慢してくれたおかげで簡単な手当てならすることができた
下着もつけずに一枚の大きなシャツ
真っ白な肌にはいたるところに痣が見えた
ユウのおでこに触れてみても熱は下がっているようだし、顔色も良いように見える
....とりあえず熱は下がったみたいだな
念のために薬を飲ませようとしたけど、それは飲む前から苦々しい顔をして、そっぽをむいてしまった
「飲まないと治りが悪いんだよ?」
言い聞かせてみてもユウはまるで聞こえないふりを決め込んでいる
そのうちユウは一人でふらりと立ち上がるとペタペタと裸足の足を鳴らして歩き出した
「どっ...どこ行くの?」
椎名の心配をよそに向かった先は寝室の窓
窓の大きさは壁の半分くらいで身長の小さなユウには背伸びをしないと覗けない高さにあった
ピョンピョンと飛んだり、爪先で立ってみりして、一生懸命外を覗こうとしている
「なに?何か見えるの?」
椎名は気になって 近づこうとすると鎖の長さが不十分でその窓までたどり着くことができなかった
それでもユウは椎名の腕をとってグイグイと窓の方へ引っ張っていく
「そっちまでいけないんだよ、ごめんね?」
繋がれた両手を見せてこれ以上行けない事を見せると、ユウはあからさまに残念そうにうつむいた
「なにか見えたの?」
椎名が問いかけてみても 返事は返ってこなかったけれど、あまりにもその顔が悲しそうでなんだか心苦しくなる
「彼が帰ってきたら、これ外してほしいって頼んでみるね」
椎名の手を握り左右にぶらぶらとふる仕草はまるで「つまんない」と訴えているかのようだった
「ごめんね」
しばらくするとユウの目線はまた窓に映り、そして急にまた走り寄って声を上げた
「あー」
何かを訴えるように窓を覗いて、指先でトントン叩いて、椎名を振り返ってくる
「なぁに??」
「あっ...」
何かを言いたい事があるのかな?
--なんだかもう少しな気がする
「なぁに?言ってごらん?」
椎名の言葉にユウは目を上に向けて考えこむような仕草をみせる
「うぅ...あっぁぁ」
それはまるですぐ喉元までかかった言葉を一生懸命だそうとしてるように見える
「と...」
すると ユウがようやく何かを言いかけて口を大きく開けた
「え?」
椎名が聞き返すのとほぼ同時にぐらいガチャガチャと玄関から物音が聞こえた
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