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ユウと椎名
玄関の鍵の音聞こえるとユウは椎名のことなどそってのけで玄関まで走って向かう
まるで しっぽをふってご主人様の帰りを待っていた子犬のようだった
彼が 靴を脱ぐのも待てないくらい飛び跳ねるようにその周りをまとわりつく
「ただいま、いい子にしてた?」
笑いかける彼に向ってユウは一生懸命に腕を伸ばして抱き上げてもらえるのをせがんでいた
「まって、荷物おいてからね?」
彼は 両手に大きな袋を抱えて部屋に戻ってきた
鎖でつながれた椎名を見ても顔色一つ変えずに声をかけてくる
「あ、先生、お腹すいた?」
大荷物の中身はスーパーの買い物のようで、食材や飲み物が大量に見えた
「どこいってたの?」
「買い物だよ、ご飯たべない?俺、腹へっちゃった」
彼はそういうと当たり前のようにキッチンに移動していく
ユウはその後をしつこくついて回り服の袖を引っ張ってみせた
「あ?ーーああ、ごめんごめん」
” 忘れてた”と彼がユウを抱き上げるとその肩越しに満足したような顔が見える
ーーちょうど返ってきたおかげで何か言おうとしたあの子のタイミングを逃してしまった
一体、何を伝えたかったんだろう......
「ねぇ......窓の外、何かあるの?」
「え?」
「いや...その子、窓の外覗いてたから」
椎名の話を聞いた彼はユウを抱いたまま寝室の窓まで近づいていく
「なぁに?ユウ、なんか見つけたの?」
窓の外を覗くようにして彼はユウに問いかける
肩越しからその景色を見せて何度も繰り返した
ーーふと気づくといつのまにかユウの顔から笑顔が消えていた
真っ青になって窓のほうを見ようともしない
「ユウくん?何が見えたの?」
その態度が不自然すぎて、なんだか違和感を感じる
椎名の言葉も聞くつもりがないように彼の肩に顔を押し当てている
「ユウ?顔見せて?」
「......」
「ユーウ?」
顔をうずめていたユウは彼の二回目の呼びかけに焦るように顔をあげた
「なんかあったの?」
おでことおでこをつけて彼はユウの目をじっと見つめる
「....っ」
声にもならないような音がユウの喉元から聞こえると小さく首を横に何度もふって「何もない」と訴えた
「ほんと?」
念を押されてもユウは頑なに「何もない」と訴え続ける
「あっそう、じゃぁ抱っこおしまい」
すると彼は抱き上げていた腕を急に外して、その拍子にユウは勢いよく床に落下した
「ちょっとっ!!危ないじゃないかっ!!」
椎名はとっさに床に倒れこむユウに駆け寄った
突然の事に受け身を取れなかったのかユウ苦痛に顔をゆがめている
「大丈夫?」
思わず背中に手を添えるとその手に伝わってくる感触はまるで怯えきった小動物のように小刻みに震えていた
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