54 / 445

ユウと椎名

彼はそのまま振り返る事もせず、再びキッチンへ向かっていった 買った食材や飲み物を片付けながら、イラついた姿勢が空気をピンと凍り付かせる 強めに物音を立てたりして、ガシャンと音が響くたびに、ユウはビクビクと大げさなくらい体を強張らせていた ユウは無意識の中でそばに立つ椎名の服の裾をギュッと握りながら、不安そうに彼を目で追っている しばらくするとキッチンからなにやらおいしそうなにおいが漂ってきて、椎名は自分が空腹であることを思い出した 「先生、こっち来て?食べよう」 「僕にもくれるの?」 「なんで?先生はお客さんなんだから」 客として認識しているくせに手錠をかけるのか..... 彼の行動は普通をはるかに超えていて予測ができない 「そう思うなら、コレ、外してほしいんだけどな」 椎名は困ったように彼に向って手錠を見せつけた 「行こうか?」 椎名がユウの手を取って引くと不安げなまま、ヨタヨタとついてくる 香ばしい匂いが立ち込めるそれは炒飯のようなものでそれがのった皿が二枚テーブルの上にのせられた 「ユウはこっち」 そういうと彼は小さめの皿に同じものをのせて床に置いて見せた よく見るとそれは犬のエサを入れる容器 「なに...して....」 あっけにとられる椎名をよそにユウはその前にちょこんと座りこんだ ユウは目の前のさらにそっと手を伸ばすと 「だめだよ!」 椎名が急に大声をあげた ユウはその声に驚いてさっと手を引っ込めておろおろと彼を見上げた 「この子は犬じゃないんだよ?!」 椎名が彼に強く言うと彼はーーはぁっ...と一つため息をついて言った 「あー、そうだったね」 まるで他人事のようにその場を離れ、向かった先は寝室だった 彼はベットサイドに置かれた小物入れから何かを取り出して戻ってくる その何かを掴んだまま少年の元にしゃがみこむと、笑顔を浮かべていった 「ほら、ユウの宝物、返してあげる」 そっとユウの首元に手を回して付けられたのは真っ赤な首輪 それはユウが彼からもらった初めてのプレゼント とりあげられて寂しくて、返してほしかった宝物 金具を通してつけ終わると、彼はその間に人差し指を引っ掛けてにっこりと笑った 「はい。俺のかわいいワンちゃんのできあがり」

ともだちにシェアしよう!