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ユウと椎名ーミツルー

****** 大型ショッピングモールは広すぎて疲れる 人も多すぎるし、音楽もうるさくて悪酔いしそうだ 自分のためだけなら絶対来たりはしないけれどこの場所に来たのはほかでもない「ユウ」のため いつも買うプリンが売り切れてたから、歩いてここまできた 一階の食料品売り場には目当てのプリンだけじゃなくていろんな種類があったけど、じっくり選ぶにはここは寒すぎてさっさと買い物を済ませてしまった プリンだけじゃなくてもっといろんなものを与えてあげたい気もするけれど、これ以上自分以外に好きなものができたら困る 教えてないのに「とり」と言った 俺以外好きだといわないようにあれだけ言ったのに、あいつは俺がいないときにあのきれいな瞳で自分の好きなものを見ていたのかと思うと怒りが沸いた あげく嘘までついてそのことを隠した そのことをキレて問い詰めたら、あまりにも泣くから、「とり」を覚えられたことをほめてあげるのを忘れてしまった 人を育てるのはつくづく難しいと思う 早く帰ろうと思ったけれどふとエレベーター脇の各階の案内表示が目についた 6Fのおもちゃ売り場 考えてみたらいつも少年は一人で自分の帰りを待っていた 何もない部屋で一人っきり、窓の外を眺めている毎日を過ごしながら、そこから見える小鳥を見て喜んでいたのに、それすら怒って、取り上げた ユウはいい子だから俺が怒れば何でもいうことを聞く 俺が手を離せば、この世の終わりみたいに悲しんで、頭をなでれば泣いて喜んだ たまにはいい子のユウに何か喜ぶものをあげてもいいんじゃないか..なんて気まぐれに思った エレベータで6Fまで上がると、そこは大きなフロアで子供向けのおもちゃが目いっぱい並んでいた 普段なら絶対来ないはずだから、一体何がどこにあるのか全く分からない フロアには子供がごった返していてその場にいるだけでうんざりした 「これがいい!こーれー買って!!」 フロア中に聞こえる声で駄々をこねるガキを見ると本当に殺したくなった 何がいいとかどうでも良くなってきて、やっぱりくるんじゃなったと思う 踵を返してそこから帰ろうとしたとき、ふとあるものが目に入った それはふわふわしたぬいぐるみ いろんな動物のぬいぐるみが積み上げられていて、やっぱりせっかくだからこれでも買って帰ろうと思った クマ...うさぎ...キリン.....ネコ...... どれでもいいし、どれも気に入らない 積み上げられた山に手を突っ込んで探ってみるとペンギンが出てきた ペンギンってとりだっけ.... ユウは鳥が好きだし、ちょっと違うけどこれでもいいか.... 山から崩れそうになった端から今度は犬のぬいぐるみが顔を出す 犬....ユウは分からないんだっけ それならと2体無造作に掴んでレジまで持っていった レジの女の人が「プレゼントですか?」といったから頷くと、ラッピングをしてくれるといった 包装紙とリボンの色を聞かれたからお願いすることにした 「赤いリボンを犬の首に巻いてもらえませんか?」 「はい?」 「それだけでいいです」 彼がニコッと笑うとレジの女は少し気味の悪い顔をして言われた通り犬の首にリボンを巻いた 紙袋に入れられたぬいぐるみを受け取ると速足でその場を後にした ユウは喜んでくれるかな..なんて思うと自然に頬が緩む 帰り道、紙袋をのぞくと、赤いリボンの犬が自分をじっと見ているような気になった 道端で取り出して彼はつぶやいた 「これ緩くない?」 そういうとそのリボンをほどいてもう一度、今度はきつく結びなおした

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