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知らない世界ーユウー

痛くない...痛くなんかない 爪をゆっくり剥がされても、ハサミで腕を切られても、首を絞めつけられても、気を失うぐらい拳で殴られても... そう思っていれば痛いことなんか感じない だってこれは自分が悪いから...悪いことをしたのはユウだから だからこれはされないといけない「痛いこと」 でもへいき だってもうすぐだから ”痛い”のあとは”優しい”から 痣だらけの顔を撫でてくれたり、裂けた傷を塞いでくれたり 血のにじんだ唇をぬぐってくれたり 動けない自分をベットに運んでくれたりする 彼の”優しい”はいっぱいある ”好き”といわれるとうれしくて、”好きか?”と問われれば伝えたくて仕方がない 言葉にすることは難しくて、もどかしいけど大事な言葉 それなのに.... ”好きなら痛くしちゃダメ” じゃあ...なんで? 彼は...「好きだ」といいながら殴るのはなんで? 「いい子」だといってキスをしながら全身を噛むのはなんで? 泣いてる自分を抱き寄せて包んだ背中に爪を立てるのはなんで? 痛いあとしか”優しい”がないのは...なんで? 急に頭の中がぐちゃぐちゃに混ざりあって足元が揺れる グラグラして立っていられなくてその場に崩れるように座りこんでしまった 頭のぐちゃぐちゃがドロドロになって液体になって目から流れていくみたいだった 自分とは...一体何なんだろう 張り詰めていた何かが切れてしまうようなそんな感じ こんなこと思ったことなかった なんで?なんて...思ったことなかったのに 分からない こんな気持ちも溢れて止まらない涙のわけも それでも止めようと思えば思うほど涙が視界を遮っていく ふと背中に何かが触れた あったかくて大きいの 手のひらで目を擦りながら顔をあげようとすると、そのまま全身を包まれた 目の前の人が自分を抱きしめてくれていると気付いたのは"大丈夫"と言われた時 その人は大きくてあったかい手のひらで背中を何度も撫でてくれた それは心地よい一定のリズムがあって、それまで頭の中をいっぱいに占めていた真っ黒のなにかが少しずつ 小さくなっていく気がした 耳元ではずっと聞こえていた 「大丈夫、大丈夫だよ」 それは聞き覚えのある言葉 大丈夫だよね、ユウ...痛くないよね? 我慢できるよね?大丈夫だよね? 彼の「大丈夫」はもっと痛い事が続くという合図 それを言われたあとは、いつも意識がどこかへ飛んでしまう それなのに、今の自分ははっきりと抱きしめられているのも分かるし、あったかいと感じることもできる おんなじなのに全然違う....こんな言葉は知らない どうして、この人の"大丈夫"はこんなにあったかいの? どうして彼のは思い出すだけでこんなに苦しいの? この人は”優しい” 痛くなくて優しい人 彼とは違う優しい人

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